二重虹ものがたり 🌈

上月くるを

二重虹ものがたり 🌈



蜜豆やこの佳きひとに木の匙で

白玉や夫婦ぜんざいつつましく


餡蜜にかなしみの粒とかしけり

故郷の果実ゼリーの打ちふるへ


おそろひの藍の浴衣でバスに乗る

夫は手にあの子の好きな麦茶持ち


「あ、虹」と妻の小さく声あげぬ

ふたりして窓を見やれば夏しぐれ


たいせつを守りたまへと虹立ちぬ

虹立ちて二重になりしは符号かな


犬いまし虹の架橋に到着す

先着の犬がむかへし二重虹


夏空や「会へたんだね」と夫の言ふ

夏の雲「あんしんだね」と妻の言ふ


逢ひたしと一途にねがふ片白草

その名聴くことさへつらし忘草


いぢらしき俤偲ぶ花うばら

体温を感じてゐたい月見草


ゆめに見し黒きひとみや著莪の花

夜の花藻うれしうれしと匂ひけり




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