第4話
「なんだこれ!どうなってる!」
意識を失ってからどうやら一晩経っていたようで、起きた時カーテンの合間から日が差していた。
気を失っている間にかなりの汗をかいたらしく、服が少しベタついていた。このままでは気分も悪い。普段はやらないが朝シャンをしよう。そう決めた。
とりあえずの下着だけを持って脱衣所に入り、何気なく鏡を見た。
そこには知らない男が映っていた。白髪黒目のイケメン野郎。しかし顔がいいからといって不法侵入までとが許されるわけがない。
動物のように鏡であることに気付かず威嚇すること数分。映っているのがどうやら俺自身だという事実をやっと理解した。
落ち着いてよく見てみると先程出会ったシュウと瓜二つだった。髪色はなぜだか白に変わってしまっている。髪質は.....変わってないな、天パ気味なのがちょっとしたアイデンティティだから安心した。
なにはともあれ、さっさとシャワーを済まして、それから考えよう。脱いだ服を洗濯機に投げ入れる。もちろんノールックだ。
よくよく考えれば今は1月半ば、普通に寒い。腕を擦りながら浴室に入る。
急いでシャワーを出すと、冷水を頭から被る。
「さ、さむい。早いことお湯になってくれよ〜」
歯が意識に反してガタガタと音を立ててしまう。こういうのは1回被っては抜けた方が寒いというものだ。
このあとお湯になったシャワーを堪能し、鼻歌を奏でながら色落ちを若干期待しつつ髪を洗った。
風呂場の鏡に映る自分に少々げんなりする。冬の寒さと生来の出不精が見事にマッチした結果、それなりの脂肪が付いてしまっている。昔から痩せ型というわけでもないが、肉付きの悪い方だった。しかしここ数年は太りやすくなってきている。
「しっかし、どうにかならないかね。脂肪さえ無くなればそれなりに見栄えもいいはずなんだけど」
贅肉をつまみながら、できもしない妄想を零す。ぷにぷにと意味もなく摘む。ダイエット効果があれば、なんて思っていなくもないが。無意識につまんでいると、脂肪が縮んでいくのを感じる。単に指が滑っているのかと思ったが、明らかに異常なスピードで脂肪がなくなっていく。とうとう贅肉が綺麗に消え、それなりに見栄えのいい男が鏡の中に立っている。
なぜこんなことが?
ハテナが頭を何周もした頃に、これが『イツワリ』の力だと確信した。くだらない妄想だが、確かに実現して欲しいと願った。だから現実が変わった。馬鹿げた力だ。強く願ったからと与えていいようなものではない、神というものがいるのなら物申してやりたい。
力を使えば体型を変えられるとわかったからには試さないわけがない。それからしばらくの間、極度の肥満体型や骨が浮いてしまうやせ型、ボディビルダーの様な筋骨隆々とした姿まで考えうる限りのレパートリーに変身して遊んでいた。
しかし最終的に、体の変化に耐えられなくなったのか酷い吐き気を催し、トイレへと駆け込むこととなった。
力の内容からすれば大したことない代償だったが、体型で遊ぶのはもうやめようと決めた。
嘘つきは英雄のはじまり @sagisou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。嘘つきは英雄のはじまりの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます