第3話

光が瞼に当たり、その煩わしさから目が覚める。明るさに目が慣れていないからか、まだ視界がぼやけている。

起き上がろうと思った時、違和感に気付く。

あれ?俺、椅子になんか座ってたっけ。

椅子、というよりはソファか。

段々と鮮明に見えるようになってきた。肘置きに両腕が置かれていることからも1人がけなのだろう。手触りから革だと思うが、まだ新品同然のようだ。


そんなことはともかくと顔を上げる。どうやら、正面はガラス張りだったようで、日差しが瞼に直撃する。反射的に手を目にかざした。手の隙間から茜色が差し込む。夕暮れを感じさせる。


「待っていたよ」


手の向こう側から誰かの声が聞こえる。


「夕日はただのまやかしさ。ただの嘘っぱちに過ぎない。ほら、手をどけてごらんよ」


はじめて聞いた声だが、まるで古くからの親友のように感じられる。そして彼がそう言うのだからそうなのだと手を下ろす。

先程までの日差しが嘘だったかのように、今は何もかもが鮮明に見えている。


こちらを見ている男がいる。彼が俺に声をかけたのだろう。少し目にかかるほどの黒髪に黒目、顔立ちは所謂イケメンってやつだ。その男は俺と同じようにスーツを身にまとい、質のいい机、エグゼクティブデスクに頬杖をついている。

俺の意識が向いたのを察したようだ。頬杖をついていた手を挨拶するように軽く上げる。

「やあ、虚井 真君。僕はシュウ、わかりやすく言うなら君の力に住まう者、かな?」

人が力に住まう?どういうことなんだと言おうとして声が出ないことに気付く。

「まだ力が体に馴染んでないみたいだね。心配しなくていいさ。次会う時は僕と好きなだけお話できるようになってるよ」

こちらが話を聞けるように、且つ淡々と彼は説明する。

「ここは君の意識と世界の狭間。許された者しか入れぬ領域さ。僕は力がどんなものか説明するために、君をここへ呼んだ。早速説明しようか。『イツワリ』それが君の力の名前さ。どんな力か、わかりやすく言うなら嘘から出たまことってやつだよ。例えば.....そうだな。誰もが想像したことあるんじゃないかな。学校に強盗が入ってきて、それを自分が撃退するってやつ。君はね、そうなると口にすれば想像通りのことが起きる。細部はちょっと違うかもだけど、大筋は思ったまま。こんな感じで大抵の嘘は本当になる。わかったかな?」


彼が僕の力に住む者だからか、はたまた力を手に入れたからか。説明された情報が知っていたことの復習かのように聞こえた。あまりに強い力だ。それこそダンジョンを滅ぼすことができてしまうくらいに。そんな考えを見越してか、シュウは続ける。


「おっと言い忘れていたよ。外側からダンジョンを壊すことはその力ではできない。残念ながらダンジョンはこの世界のものだ。その内部から活動を停止させるしかない。でも、君は望んだろ?この力を。ダンジョンを滅ぼし得る力、代償は大きいよ。君は世界を変えなければ、もう次はない。そうならないためにもやり遂げるんだ。もちろん、僕は協力を惜しまないよ。僕は君そのものだからね」


重い契約をしてしまったものだ。不思議と後悔はしていない。しかし、ダンジョンを攻略する他に人生を進ませることはできなくなってしまった。成人迎えたばっかの人間に背負わす十字架としては大きすぎる気がしなくもない。ただその反面、現実離れした現実に期待を向けている自分がいる。思わず手を強く握る。声が出ないが、きっと俺は笑っている。これは創作じゃないのだと。


「.....その様子なら、きっと大丈夫だね。っとそろそろ時間か。」


意識が遠のいていく。ここに来た時と同じように視界がぼやけて見える。


「これからも仲良くしようじゃないか。最後にアドバイスだ。君のその力、人に知られてはいけないよ。誰であろうとね。」


アドバイスを聞き終えた俺の視界は白く染っていく。もうほとんど意識は残っていない。


「あ、これは本当に忘れてた。この力、もう少し代償があるんだ。ある意味嬉しいことかもだけど。起きたら鏡を.....って行っちゃったか」



何を言われていたか聞こえていなかった俺は、後に鏡を見て驚愕するのだった。

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嘘つきは英雄のはじまり @sagisou

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