第18話 デート

 デート。いや、入間の高校は男女の不純異性交遊を禁じているわけではない。今どき、恋愛禁止はアイドルと障がい者施設くらいなもので、支援学級だって恋愛は自由だ。


 自由を求められた、人類になくてはならない、恋愛。


 だ、けれども。失恋によって男性は年間400人以上の自殺者を出している。


 恋愛はそれほど難しくて怖い。


「僕は恋愛するのが億劫なんだ。自殺するかもしれない」


 健常者や障がい者を問わず、恋愛は脳のドーパミンを極限まで高めて、他者に依存させる。もう何を言っているのか分からなくなるほど奥が深い。


「私がラノベを自殺なんてさせません」


 と灰色が入間の手を取る。手つなぎデートの始まり。お互いの顔が赤くなる。


「葉隠入間さんはラノベと結婚しているので、これは浮気ではないですよね?」


「あああ、当たり前だのクラッカー。手くらいで浮気ならば人類みんなビッチだ」


 緊張は高まる。汗が出る。呼吸が早くなる。心臓が早鐘を打つ。


 二人で手を繋いで映画館に向かった。


 正直、デートは、手をつなぐ→キスする→フィニッシュ。と三回攻撃が有効であり、三度のデートで最後まで決めきれなければ別れた方が良い。


 三か月の法則が存在する。


 告白は三か月以内がベストであり、一年以上の付き合いで告白すると一番、振られやすい。


 だから、付き合うならばお互いをあまり知らない三か月以内に速攻アプローチをしかけるとだいたいうまくいく。


 入間はそんなこと当然知っている。灰色も読書した本の知識で、三度のデートで決めることを知っている。恋愛工学だ。


 だ、けれども。今この瞬間だけは永遠に止まってほしかった。


 二人の甘い時間が、永久に続きますように。せめて半永久であってほしかった。


 大切で甘くて楽しい時間はあっという間に終わる。


 映画を見て、暗い中、二人で手を繋いだり、触りあったり、した2時間の恋人時間は終了を告げた。


 入間は、映画の内容をまったく覚えていなかった。もう灰色の柔らかな感触だけが残った。


「楽しゅうございました」


「面白かったね、映画(大嘘)次は美術館に行こう」


 午後三時。映画館のキャラメルポップコーンとコーラを飲み、映画終わりにスタバで軽食を取り、二人は美術館に向かった。今日が一生、ループすればい良いのにな。


 青春ってたぶんずっごい甘い。キャラメルポップコーンにハチミツと砂糖をぶっかけて糖尿病になるくらい甘い。ああ、缶コーヒーの砂糖は毒だから、できれば無糖のブラックコーヒーを飲むように。入間からの忠告だった。


 って、なんでやねん!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る