第14話 魔物

 100点と1点。直木賞は100の天才。入間たちは1の凡人。


「灰色。僕たちの目指す小説は魔物の宿った小説。“魔を宿す”」


「魔を宿す?」


「ああ、生きるも死ぬも、読者は作者にコントロールされる、圧倒的没入感だ」


 魔物はどこにでもいる。例えば、甲子園。甲子園の魔物は、マインドコントロールやエラーコントロールを自由にする。ピッチャーのボールがすっぽ抜けるのも魔物の仕業だ。


 魔物はどこにでもいる。都道府県のどこにでも。神様はすべてを見ている。


「魔を宿した小説は、人を動かす。魔物は、裏天皇であり、天皇さえもコントロールする」


「令和天皇でさえ?」


「ああ、魔物の範囲外なのは政治家か医者。一部のエリート階級だけだ」


「どこでその情報を?」


「んっと」


 ――経験則。入間は魔物に殺されかけた経験がある。


「いいか。灰色。僕たちが100点の天才に肩を並べるには、小説に“魔を宿す”必要がある」


「魔法ね?」


「うん」


 葉隠入間は30歳まで童貞のまま、魔法使いになろうとしていた。“魔を宿す”ため。しかし、心のどこかで、30歳前に魔物に殺されるイメージがあった。


(最後に好きな子とセックスしたかった……)


 入間は灰色とやりたい、モブ子とやりたい、いろんな女性とやりたい、という気持ちに蓋をして、ラノベと結婚する。石川県と心中する覚悟で小説を書き、教える。


 寿命が先か、小説家が生まれるのが先か。運命の神様と文字通りのデスゲームを繰り広げる。


 すべては魔物の手の内、パチンコやスロットは遠隔だし、ギャンブルは胴元が絶対に勝つようにできているし、宝くじで億万長者になった人物からは搾り取るシステムを魔物は用意している。


 日本国民、全員カモ! 魔物の手の内に、入間たちはいる。


 魔物には絶対に勝てない。だから、せめて、小説に“魔を宿す”商業出版していなくても、魔物は入間も灰色も、モブ子も、みんなの脳内を読んでいる。アーニャ、アーニャ、アーニャ。トラトラトラ。アメリカは最強であり、日本は米国の同盟国。きっと戦争ですら、魔物はいた。と思う。陰謀論は、入間の妄想であり、そんな、魔物と共存共栄する小説を書きたいと願った。


 日本はGHQの足元にあり、裏天皇は最強であり、今日も入間と灰色は小説を書き続ける。

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