第13話 ラノベ維新の私小説

 灰色が書き続ける。なのでラノベ維新である入間も私小説を書く。


 私小説は主に、僕、私、自分、俺、などの一人称で話が進む。


 俺……いや、控えめに言って、僕は凡人の家庭に生まれた。ラノベ一家であり、貧乏家庭。借金は一億円。そして、何もかもをラノベにささげたはずなのに、僕にラノベの才能はなかった。僕は2歳から小説を書いた。14年間、14年間だ。物心つくころから書き始め、高校の二年生まで努力し続けた。しかし、200万部を売る、メディアミックス云々で1億円を稼ぐような雲上人のラノベ作家には、まったく歯が立たなかった。


 家族全員、一家心中ものの才能なさ。特に、僕はひどく、もう自分で書いても、まったく、誰にも読んでもらえなかった。すごく孤独な中学生時代を過ごした。


 転機は春。高校生になって。


 ――凡人が14年間努力してダメならば、誰か天才を一から始動しよう。


 僕の14年間で培ったエッチ……ではなくて英知を灰色にぶつけた。例えだが射精した。すべてを授けた。


 最強の二人。モブ子を入れて、最強の三人組だ。


 これしかない。これでだめなら自殺するしかない。それか先に寿命が来てしまう。


 僕は灰色の才能とモブ子のコネにすべてをかけた。


 僕は僕、葉隠入間だ。武士道とは、ラノベ道とは、死ぬことと見出したなり。


 さて、とここで入間の死小説が終わる。私小説だが。


 遺言のような小説になったのは、それだけ入間が必死にラノベ作家になりたかったし、ラノベ作家を育成している証左。さてさて灰色は? と図書館の隣の席に座っている灰色のパソコン画面を覗く。


「なんだこれ?」


 真っ白。


 一文字も書かれていなかった。


「すみません、ラノベさん。小説を書くのって難しいです……」


 天才の卵は、まだ呼吸さえしない生まれたばかりの赤ちゃんだった。

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