第9話 芥川賞・直木賞の贈呈式
2月の後半。芥川賞・直木賞の贈呈式が開かれる。
今年はなぜか4月に延期された。パンデミックとか地震とか気象学的リスクを考慮した結果だった。
そして、モブ子がこんなことを言い出した。
「芥川賞・直木賞の贈呈式に出るわ」
「「はい?」」
「希望高校の文芸部は芥川賞・直木賞の贈呈式に参加するの」
純文学系インフルエンサーのモブ子は芥川賞・直木賞の贈呈式に招待されていた。しかも文芸部一同であり、入間と灰色は勝手に参加を義務付けられる。
「あの、僕たち、ラノベ作家志望なのですが……」
「うるさい。部長の権限として言います。芥川賞・直木賞の贈呈式へ強制参加です」
芥川賞・直木賞の贈呈式といえば、その年の文学の王である。ラノベ王とは違った選考基準だが。芥川賞は純文学の新人賞。直木賞は大衆文学の中で一番優秀な作品に贈られる。だから将来的に、一般文芸に鞍替えする時は直木賞を目指すことになる。入間は詳しくは知らないが……。
灰色が手を挙げる。
「私、参加したいです」
2対1。文芸部で男子の、というか入間の地位は低いので、強制参加が決定した。
しかし、純文学や大衆文学を知らないとはいえ、本物の作家先生に会える幸運はほとんどない。生の目で文学界の最高峰である文学の王様、直木賞作家を目にするのは感慨深いものがある。
「灰色ちゃんはやる気満々ね。受賞する作家先生にインタビューして、あたしのSNSで流すから、インタビューする内容を考えてきて、お願い。ラノベ、あんたはインタビューしなくていい。どうせラノベ関係だからくだらない。結構です」
「いいよ、いいよ。僕は、どーせ、ラノベ維新ですよ」
入間とモブ子が睨みあう。
芥川賞・直木賞の贈呈式は1000人くらいが参加し、1000人のほとんどが作家先生や編集者、メディア関係の人になる。あと作家先生の家族や友達など。招待されるだけで栄えある輝かしい式だった。
純文学SNSインフルエンサーでフォロワーは10万人。モブ子の影響力にあやかろうと純文学の作家先生も必死だった。昨今、小説家になろうの人気が高いけれど、文学は斜陽にある。ソシャゲ、YouTube、音楽、SNS、アニメや映画などのエンタメ群。それら娯楽における影響力は強く、文学のパイはどんどん小さくなっている。
ましてや純文学なんて若者はあまり関心が無い。アニメの影響でちょっと文豪の名を知ったかぶりになっているだけで、純文学を読むZ世代は絶滅危惧種になったと常日頃感じる。
モブ子は現役女子高生SNS純文学インフルエンサーとして期待の星になっていた。
「あれ、文芸部って僕以外に凄い人ばかりじゃない?」
「今頃に気づいた? その通りよ」
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