第8話 兼業作家

 小説家を目指すにあたって大事な話がある。働こう。労働するの一点が重要。


 漫画家は兼業がほとんどいない。なぜなら漫画を描くのは時間がかかるから。しかし、小説家には兼業作家がたくさんいる。なぜなら、働きながらでも3ヶ月に1作を書くことができる。集中すれば、推敲せずにならば、1ヶ月で小説を仕上げることができる。


 漫画家は専業のみ一本道。だから漫画に人生をかける、運否天賦の割合が高い。


 しかし、小説家には兼業作家になるという道が残されている。


 半分は本業の仕事、半分は副業で小説が書ける。


 リスクの許容度の違いだ。最初から専業作家で背水の陣を引くのは、小説という、働きながら作業できる簡易さというアドバンテージを捨てている。もったいない。


 だから入間は、小説家志望の彼らに対して言った。


「働けるならば、働きながら兼業作家を目指してください」


 灰色こと金閣寺雪も、モブ子も、お金に余裕がある。それでも社会的ステータスを捨てるのはもったいない。サラリーマンと個人事業主では、クレジットカードの作成や家のローンを借りる信用度が違う。大企業のサラリーマンの信頼は抜群だ。


「まあ、灰色さんは精神障害があるから無理に働く必要はないけど、モブ子、お前は絶対に働け」


「え~本当? あたしはSNSフォロワー10万人の純文学インフルエンサーなんだけど」


「じゃあ、SNSインフルエンサーと純文学の執筆の二足の草鞋を履けばいい」


 入間は忘れていた。文芸部には精神障害3級の手帳持ちの灰色さんと社会不適合者のモブ子しかいないことを……。灰色さんは実家が金持ちだからラノベ作家を目指して路頭に迷うことはない。しかし、モブ子は危険だ。推しの聖地巡礼に稼いだ収入のほとんどを使っている。


「モブ子。金持ちってのは年収1000万円あっても趣味に1000万円使ったら素寒貧なんだ。本当の小金持ちは節約と投資を徹底的にやるもんだ」


「あたし、宵越しの銭は持たないタイプなの」


 ズコー、とコケる入間。


「駄目だ。これは……」


「ラノベ維新。あたしは借金がないから平気。だけど、あんたはどういうつもり? 一億円の借金はどうやって返すの?」


「大丈夫」


 と言って入間は灰色の肩をがっしりと掴む。


「僕には稀代の天才ラノベ作家。将来のラノベ王。灰色さんが相棒にいる」


「他人任せかよ!」


 モブ子は入間に接近して、灰色の肩へ、がっしり掴んだ入間の手を払いのける。


「ってかセクハラ。本当に、あんたは妙なところで積極的よね」


「ありがとう」


「褒めてない! ……ったく、このアグレッシブさがあれば彼女の1人や2人、簡単にできるのに」


「え? 葉隠さんは彼女いないのですか?」


「灰色さん。よく聞いてくれた。僕の彼女はラノベだ。二次元の女の子で~す♪」


 リアルの恋愛は適当にごまかす。彼女いない歴=年齢の入間は、ラノベに登場する二次元の女の子と結婚したと話を誤魔化す。これが一番、無難。


 まあ、希望高校の全校生徒に変人枠で見られているので非常に悲しい。嫌な意味で有名人になるものではない。


「とにかく小説家志望の兼業作家は精神的にも肉体的にも安定するからおすすめって話」


 ちゃんちゃん。

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