第5話 幸せの定義

「結論から言おう。幸せになるには年収1500万円以上が必要だ」


 2010年の研究では、年収800万円を稼ぐと幸せは頭打ちになる、とされた。


 お金はある程度あればいい。稼ぎすぎても幸せにはなれないという通説。


 しかし、イェール大学の2010年に研究した同じ人が、2023年に3万人以上アメリカ移住民を研究すると、研究結果は逆の結果が出た。


 年収は上がれば上がるほど幸せになれる。


 詳細は書かないが、ポジティブな人とネガティブな人で研究結果は変わってくる。


 ポジティブな幸せな人は、お金はあればあるだけ幸福度が高くなる。


 ネガティブな不幸な人は、年収1500万円までとりあえず稼げば幸福度は高くなる。


 と、まあ、どんな人でも年収1500万円を稼げば幸せ度は高くなる結果が出た。2010年の研究よりも興味深い結果だ。つまりビル・ゲイツのようなお金を使って世の中を幸せにしようと考えている人は、お金は天文学的に稼げば稼ぐだけ、幸福度は高まるのだ。


 じゃあ、もう、やるしかない。


「一緒に年収1500万円以上になろう、ラノベ作家で!」


 図書室で入間は雪に猛アプローチした。根回しはすでに済んでいる。図書室の司書の先生と常連の生徒に、「今から金閣寺さんに大声で声をかけます。許してください」と説得した。


 いつも一人で本を読んでいる金閣寺雪に、周囲も心配していたのか、快く入間の根回しに納得してくれた。


「嫌よ」


 と雪に断られる。


 入間はもちろん、担任の女性にも根回ししてあった。雪と同じクラスの担任へ。


「金閣寺雪さん。このままだと留年しちゃうね」


「だから何?」


「校長先生が、文芸部に入ってくれればそのまま進級させるって」


「あなた、校長先生まで脅したの?」


「人聞きの悪い。脅していません。意見しました」


 入間は、担任の先生→教頭先生→校長先生、と順番に意見書を提出して雪の進級を勝ち取った。


 文芸部に入部すれば進級は認める、と。


「元々、金閣寺さんの家はお金を寄付して進級を認めさせていた。私立の高校だから何でもかんでもアリなのは分かるけど、もうちょっと自分の力で進級してみない?」


「普通、そこまでする? 何が目的なの?」


「僕は金閣寺さんの小説が読みたい」


「残念ね」


「え?」


 金閣寺雪は本を閉じて、立ち上がり、入間の方をじっと睨みつける。


 ロングヘア―の黒髪が繊細に流れる。綺麗で美しい。まるで薄幸の美少女だ。


「私、グレーゾーンなの」


「グレーゾーン?」


「発達障害のグレーゾーン。文字が書けなくなっちゃったの」

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