第2話
息子の見送りが予定時刻よりも早かったため、私が立案した計画もいくばくかスケジュールが前倒しになった。
つまり、余裕が生まれたということだ。
どうやら、先ほどの生田緑地の忙しさを新治市民の森へ持ち込まなくて良さそうだ。
私はスッと胸を撫で下ろした。
気を取り直して新治市民の森へ向かった。
新治市民の森は横浜市に唯一残った森。
奇跡の森とも呼ばれているそうだ。
駐車場は横浜創英大学の裏手にある。
20台ほど停めることができる砂利の駐車場だ。
生田緑地でかいた汗はまだ乾いていない。
しかし、私はそのまま森に足を踏み入れた。
すると、先程まで住宅密集地を車で通り抜けてきたとは思えないほど一気に雰囲気が変わった。
まさに奇跡の森であり、貴重な空間である。
歩き始めるとすぐに丸山のピークがあった。
ピークといっても高低差はほぼない。
また、森に囲まれており眺望は一切ない。
そのまま素通りした。
しばらくすると、森を管理している方々の詰所に辿り着いた。
6名の方が管理用具の整備などを行っていた。
おそらくボランティアであろう。
頭が下がる思いだ。
そこからは向山までもあっという間だ。
向山のピークも森に囲まれており眺望はない。また、山頂標識も見当たらない。
私は来た道を引き返しやまんめ山を目指した。
その時だ。
それはなんの前触れもなく突然やってきた。
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
着信だ。
私は稲川淳二の気配を感じた。
やだなー、怖いなーと思いながら周りを見渡したが稲川淳二はいなかった。
どうやら怪談ナイトではないようだ。
そう。発信源はすでにお察しの通り、プラン・デストロイヤーこと我が家の長男だ。
どうやら終わりが1時間程早くなるとのことだ。
新治市民の森をのんびり散策した後は温泉とラーメンを計画していたのだ。
しかし、そのプランは見事に崩れた。
私は諦めきれずに、儚く崩れ去る温泉とラーメンを必死に掴もうとしたが、それらは私の指の間をすり抜けていった。
私は急いでやまんめ山のピークを踏み息子の迎えに向かった。
今日はプラン通りには行動できなかった。
私はプランをしっかりと執行しようと努力したが、長男が持つプランを破壊する力の方が少しばかり上回っていたのだ。
仕方がない。
しかし、その一方でこんな考えも浮かんだ。
長男が私を遠い神奈川の地に連れてきてくれなければ、本日踏んだあまり有名ではないであろう低山は今後も私の山行プランには載らなかったはずだ。
そう思うと長男に感謝の思いが湧いてきた。
私は本日のドタバタを知る由もなく、後部座席で疲れて眠るプラン・デストロイヤーに小声で「ありがとう」と伝えた。
プラン・デストロイヤー 〜神奈川の低山〜 早里 懐 @hayasato
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