第2話「出会い」

「トランプしよ!!」


1年前の今頃。

すみれは不登校の私の家に遊びに来ていた。


「お母さんはなんで、あなたを入れたのかな……たちばなさん…だっけ?」


後から聞いた話によると、母は友達が来てくれたことが嬉しかったのかウキウキで、すみれを私の部屋まで通した。


「そう!橘純恋!橘のことはすみれって呼んでいいよ!橘は君のことナナミンって呼ぶからさ!」


すみれって呼んでいいと言っているのに、一人称が橘なのが不思議だったな。

馴れ馴れしくナナミンって呼ばれたけど、少し嬉しかったのを覚えている。


「すみれ…すみれは先生に言われてきたの?」


「違うよ?橘はナナミンと仲良くなりたいから先生に家を教えてもらったんだ!入学式の時から仲良くなりたいと思っててさ!」


入学式のとき、隣の席だったすみれと少し話をした。その時、この子とは仲良くなれそうだと思った。

すみれは隣の席だったけど、家の事情で入学式からしばらく学校に行けていなかった。

私の不登校と入れ違うようにすみれは学校に通うようになったのだ。


私は上手くクラスに馴染めず、とある女子3人組にいじめられ、不登校になった。そして引きこもり、部屋は散らかしており、清潔でもなかった。


すみれは私がいじめられてたのを知らない。

だから、入学式で気になった私がいなくて、先生に家を聞いてここまで来たのだ。


「部屋は汚いし、髪もボサボサ。あの時よりもずっと暗い私を見てもしょうがないよ。」


「そんなの見ればわかるって、それでも可愛いし、橘の部屋の方が汚いよ!それよりトランプしよってば!」


そんな私でも、すみれは受け入れてくれた。



「ふふっ…すみれ、おもしろいね。2人でトランプって何するの?神経衰弱とか?」


私はすみれと少し話してこう思っていた。

この子が入学式の後もずっと来ていたら、私は不登校になっていなかったかも…と


「え、ババ抜きだよ?」


「2人なのにババ抜き!?」


「そうだよ?ババ抜きって基本的には4〜5ぐらいでやった方が楽しいじゃん?でもね、2人でも意外と楽しいんだよ?」


「本当に?」


「うん!本当!何事もやってみないと分からないよ!やるよババ抜き!」


何事もやってみないと分からないという言葉は、この時の私に響いた。


これをきっかけに私たちは、遊ぶようになった。放課後になるとすみれは真っ先に私の家に来るようになった。


すみれが毎日遊びに来てくれることにより、少し病んでいた心が癒されていた。


部屋や、髪もすみれが来る前に整えて、なるべく清潔にしていた。


気を使ってくれているのか、すみれは一度も学校に来てとは言わなかった。


すみれが遊びに来るようになって二週間が経ったある日、すみれの様子がおかしかった。体が小刻みに震えていて、髪は無理やり切られたようでボサボサだった。


昨日までロングヘアだったすみれがショートになっていたことを違和感に感じた私は、すみれがいじめられていることに気づいた。

その日のすみれは体を震わせていたけど、いつも以上に笑顔だった。


「ごめんね、ちょっと遅くなった!さぁて今日は何して遊びますかぁ〜」


私は痩せ我慢しているすみれに耐えられなくなり「その髪どうしたの……?」と聞いた。

すると「ちょっとイメチェンしただけだよ!髪が短い方が動きやすいからさ!」と誤魔化していた。


「そんな訳ないでしょ……誰がやったの!あの3人?」


私が不登校になったからすみれが次のターゲットになった…

そう思うとアイツらと自分に対する怒りがこみ上げてくる。

すみれは否定も肯定もせず、黙り込んでいた。


「ごめん…全部私のせいだ。私が不登校になってなければ、すみれはいじめられなかった。私が……私が…」


怒りが次第に悲しみに変わり、目に涙が浮かんだ。

そんな私を見て、すみれは笑顔で「橘は何もされてないよ!だから泣かないで!」と言った。

そんなわけが無い。


よく見ると制服も汚れていたり、体にかすり傷があったりする。

私はすみれの事を優しく包み込むように抱きしめた。


「もう、我慢しなくていいよ。」


すみれは我慢していた涙を一気に流した。

体は小さく、強く抱きしめたら潰れてしまうかのような儚さだった。

体の震えが止まり、少しは落ち着いてくれたみたいだ。


「ナナミン……橘…怖かった…。あいつらがナナミンをおもちゃとか、サンドバッグって言ってたからついカッとなって1発殴っちゃったの……」


すみれは私のためにあいつらに立ち向かってくれたんだ……でも、そのせいで……


「ありがとう…ごめんね…」


抱きしめながら頭を優しく撫でた。

すみれの抱きしめる力がより強くなった。


「謝らないでよ。ナナミンは悪くないんだから。橘は後先考えずに行動しちゃうから、こうなって当然なんだよ…」


当然な訳が無い。

私の腕の中で泣いているこの子が、自分を責めているという事実が許せない。


「すみれ…あいつらに何されたの?」


「言えない……」


この時の私は怒りで心が満たされていた。

あのいじめっ子3人に復讐がしたい。

その想いが頭の中を埋めつくした。

抱きしめられているすみれはそれを理解したのか、真剣な眼差しで私の瞳を見ながら「絶対、ダメだよ」と言った。


その言葉は届かず、この日は心を落ち着かせながら、すみれの髪を整えたり、傷を手当したり、制服を治したりした。


すみれは帰り際に「ありがとう、大好き」と残して部屋を出た。


次の日、私は制服を着て学校に向かった。

全ては復讐のために。私は絶対に彼女たちを許さない。


教室に入るとクラスメイトがざわつき始めた。みんなが何か言いたげに私を見つめている。


一番最初に目に入ったのはいじめっ子3人組のボス天童寺優香(てんどうじ ゆうか)だった。

彼女はおもちゃが戻ってたから嬉しそうにしていた。


そんな彼女を私は怒りの意味を込めて睨みつけた。


席まで歩いてる途中、私の隣の席で眠っているすみれが目に入った。

昨日は眠れなかったのかな…と心配していると、すみれのお腹に黒い跡がついていることに気がついた。


つまり、私が来る前からいじめが始まっていたということだ。

悔しい気持ちを抑えながら私は席につき、眠っているすみれに一応「おはよう」と言った。


すると…

すみれは「ナナミン!?」と言いながら飛び起きた。


「ナナミンだ!!!おはよう!」


すみれはとびっきりの笑顔で挨拶をしてくれた。

いじめられたあとなのに…

眠っていたんじゃなくて泣いていたのか、目の周りが少し赤くなっていた。


「すみれ、おはよう…大丈夫?」


心配するとすみれは大きく首を縦に振り、にっこりと笑顔で「大丈夫だよ!」と応えた。


放課後


私はいじめっ子3人組を屋上に呼び出した。

いじめっ子3人組はおもちゃが自分からやられに来てくれたことが嬉しいのか生き生きとしていた。


「戻ってきてくれてありがとうね、おもちゃ1号ちゃん♡」


3人にいじめられてたトラウマが蘇りながらも、怒りでそのトラウマを打ち消し、復讐心に変えた。


「黙れ……もうお前たちのおもちゃにならない。今日はそれを伝えに来た。」


私は怒りで震えながら睨みつけた。その表情は、自分でも驚くほど恐ろしいものだったに違いない。


そんな私に怯むことなく、彼女たちは嘲笑っていた。


「ははははっ!わざわざそんなことを言うために来たんだwww笑わせないでよwまぁ私たちにはおもちゃ2号がいるからあなたはもう要らないんだけどね〜w」


おもちゃ2号とはすみれのことだ。

彼女たちの余裕が私のリミッターを解除させた。


私はカバンの中を探り、冷たいハサミの感触を手に取ると、それを天童寺優香に向けた。

ハサミを見た3人は怯え、焦っている。


「そ、それしまいなさい!あんたそんなことしていいと思っているの?おもちゃの分際で!」


「そうよ、おもちゃはおもちゃらしく黙って遊ばれてればいいのよ!」


天童寺優香とその取り巻きである1人は、この状況でも自分たちが上の立場だと思っていた。

だが、取り巻きのもう1人は震えながら涙を流し、命乞いをしていた。


「ごめんなさい…ごめんなさい…死にたくないです。」


「今更謝って無駄だよ。私とすみれにした事を何倍にもして返してやるんだから!!!」


私はハサミを持ち天童寺優香に近づく。

彼女に近づく度、彼女の震えが激しくなっていく。


「来るな!やめなさい!こっち来るな!!」


天童寺優香は腰が抜けて、地面に座り込んだ。

私は怒りに身を任せハサミを振り、ビビって動けなくなった彼女髪をぐしゃぐしゃに切り裂いた。


体に刺してやりたい、そう思っていたが私は踏みとどまった。


「私の自慢の髪がぁ……あなたやったわね!」


そう言うと彼女は私に飛びかかり、ハサミを無理やり奪い取った。


「これで形勢逆転ね!私の髪を傷つけた罪は重いわ!覚悟しなさい。」


ビビって動けなくなっていたからと油断していた。

天童寺優香はハサミをこっちに向け、目がキマっていた。


「待ってください、優香様!こいつをこのままハサミで殺したら優香様が悪者になってしまいますよ!こいつをここから落としましょう!」


さっきまでビビって命乞いをしていた取り巻きが、ハイになりながらそう言った。

天童寺優香は私の首にハサミを突き立てながら、柵の前まで誘導した。


「ここから落ちなさい。そしたら、おもちゃ2号にも関わらないであげる。」


「本当に…?私が死ねばすみれは助かるの?」


「ええ、だからはやく死になさい。」


すみれが助かるのなら…

そう思い私は覚悟を決めて、柵の外に立った。


私は死ぬ前に街の景色を見下ろした。

田舎っぽくて寂しい街。

でも見ていると安心する。

私は覚悟を決め、目を閉じた。


「すみれ、遊んでくれてありがとう…」


私は落ちようと体を斜めに向ける。


その瞬間、背後から誰かが私の腕を強く掴んだ。振り返ると、必死な顔をしたすみれがそこにいた。


「絶対に死なせない……」


彼女の目には涙が溢れていた。すみれは私を引き戻そうと全力で引っ張った。


「なんで…?どうしてここに?」


声が震えた。すみれが来てくれたことが信じられなかった。


「なんでって…ナナミンが死のうとしてるのに放っておけるわけないじゃん!」


すみれの声は涙と共に震えていた。


「私はナナミンの親友だから、絶対に守るんだよ!」


すみれの声には決意と愛が込められていて、私の胸に響いた。彼女の力強い手が、私を現実に引き戻した。


「ありがとう、すみれ…」


私たちはゆっくりと柵の内側に戻ろうとした。しかし、その時、ハサミを持った天童寺優香が柵の向こう側に立っていた。


「逃げれると思うなよ!」


彼女は狂気じみた目で私たちを睨んでいた。


私たちはこの柵向こう側にいけない。

でもこのままでは天童寺優香に殺されてしまう。

そう思っていた時、屋上の入口から声が聞こえた。




「そこまでだ!」





その声の持ち主は、この菜染大位高校のシャーロックと呼ばれている黒髪ショートでボーイッシュの3年生 探偵部部長 立川桜(たちかわさくら)とシャーロックの助手である金髪美少女の3年生 探偵部副部長 神楽坂柑奈(かぐらざかかんな)だった。



天童寺優香は振り返り、必死にハサミと髪を隠したが、探偵たちには全てバレていた。


私たちは探偵部に保護され、部室に連れていかれた。

天童寺優香と取り巻き2人は会議室に連れてかれ、ホームズ、ワトソン、先生たちから質問攻めにあった。


探偵部の部室には2年の先輩2人が私たちについていた。

現在で部長をしている岩名咲(いわな さき)と、冬に転校をしたオレンジ髪ツインテールの多田桃花(ただとうか)。


咲さんは私たちに紅茶を用意し、桃花先輩は和菓子を用意してくれた。

4人で机を囲みながら座った。


咲さんは紅茶を飲んでから「あなたたち、大変だったわね」と言った。


「いえ、自業自得ですよ……私たちが手を出したのが悪いので…」


この時の私は自分を責めていないと落ちけなかった。

多分すみれも同じだったと思う。

いつもは明るいすみれも、ずっと下の方を見ていた。


「そんなに自分を責めちゃだーめ!いじめはする方が100%悪いんだからさ!」


桃花先輩は元気な性格で、いつも私たちを励ましてくれていた。

この時もその性格が私たちの支えになっていた。


「そうだけど…橘も殴っちゃったし、ナナミンはあいつの髪を切った。やり返した以上橘たちは被害者とは言えないよ。」


「でも、君たちはそれ以上のことをされているんだよ?一応、探偵部に証拠動画や、録音した音声が送られていてね。内容があまりにも酷いものだから、咲は最後まで見れなかったわ。」


「とうかちゃん的にもあれを最後まで見るのは心が痛かったね。証拠動画だから最後まで見たけどさ。」


それを聞いたすみれは立ち上がり「証拠もあったのに、どうしてギリギリまで止めに来なかったの!」と怒鳴った


「まぁまぁ落ち着いて。今回は結構大物でね、あの子が理事長の娘だから先生たちは協力してくれなかったのよ。それにいじめてると言っても先生たちは信じてくれないし…」


「そうそう。それで、とうかたち探偵部は現行犯逮捕するために、ななみちゃんがいじめられてる証拠動画を撮った子から、いじめを起こす時間、場所を聞いたんだけど、ななみちゃんが不登校になってからいじめが行われなくなってたから捜査中止になってたんだよねぇ〜」


2人は感情がぐちゃぐちゃなってる私たちに優しい暖かい目で話してくれた。


「そう。そんなか、君が学校に来たという情報が入って、昼休みからここに集まって現行犯逮捕までの作戦を企てたんだけど、いつもと時間と場所が違うから遅れちゃったんだ。ごめんね。」


「遅かったら橘たち死ぬところだったんだぞ!でも、助けてくれてありがとう…先輩たち…」


すみれは先輩たちの話を聞いて信用し、安心したのか涙を流した。

咲さんがすみれの横に行き、ヨシヨシと頭を撫でた。


桃花先輩は私の方に来て、「よく頑張った」と言って抱きしめてくれた。

桃花先輩の体はたくましく、とっても大きくて安心した。


私たちが落ち着いたあと、先輩たちはとある提案を持ち出す。


「君たちさ、探偵部に入って我々と一緒に、この学校を平和にしない?」

咲さんは優しい顔で微笑みながらそう言った。


ヒーローみたいな先輩たちがかっこよく、ああなりたいと思っていたのもあり、その提案が嬉しかった。

それに初対面の時すみれに、言われた「何事もやってみないと分からないよ!」という言葉が頭をよぎった。


すみれも先輩たちからの提案にワクワクしていたため、気持ちは同じようだ。


私たち2人はそれに対してこう応えた。


「「する!」」


こうして私たちは探偵部に入ったのだった。

天童寺優香ほか2人の処罰や、シャーロックとの話はまた別の時に……



過去編1(出会い)~完~


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私たちの探偵部 山下銀 @tarou_0521

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ