私たちの探偵部

山下銀

第1話「プリン」



「プリンがなぁい!!!」


5月21日16時30分


事件が起こった。プリン失踪事件。

それは菜染大位高校探偵部の部室にて起きた事件だった。


現場には私、2年生の水川菜々美(みずかわ ななみ)、プリンの保護者(?)で2年生の橘純恋(たちばな すみれ)、すみれのお世話役である3年生の岩名咲(いわな さき)、本を読むのが好きな1年生の影山保奈美(かげやま ほなみ)の4人がいた。


すみれは鮮やかな赤い髪を肩までのサイドツインテールにしており、大ボケで破天荒な性格。今も彼女の大切なプリンが消えたことに激怒している。彼女の顔は真っ赤だ。


咲さんは銀髪ロングヘアで、クールな表情を崩さない。すみれの暴走を止めるのが彼女の日常業務で、探偵部の部長も務めている。今も周囲を冷静に見守っている。


ほなみちゃんは眼鏡をかけていて肩までのボブカットで、紫色の髪をしている。いつもは静かに本を読んでいるが、好奇心旺盛な一面もある。今も本を閉じて、目をキラキラさせてこの事件に興味津々だ。


私は青色のセミロングの髪をポニーテールにしている。探偵部ではツッコミ役で、毎日すみれに振り回されている。


部室は大きな窓から柔らかな自然光が差し込む、明るく清潔な空間だ。壁には様々な推理漫画やミステリー小説が並び、使い込まれたソファが二つ、部室の隅に配置されている。大きな机が部室の中心にあり、上にはノートパソコンや書類が散らばり、探偵道具の一部である虫眼鏡や手帳が置かれている。


冷蔵庫が部室の一角にあり、ドリンクや軽食が保管されている。その中に、すみれが大切にしていたプリンが入っていたのだが、今はその皿だけが残されていた。


すみれは私たち3人を容疑者としてあげた。


現在の状況を説明しよう。大きな机を4人で囲んでおり、すみれが北、私が南、咲さんが西、ほなみちゃんが東に座っている。


「まず、一番最初にこの部室に入ったのは誰か教えてもらおうじゃないか……」


すみれはホワイトボードに「プリン失踪事件」と大きく書き、ホワイトボードに指をつき当てた。


咲さんは冷静に答えた。


「咲が来た時にはほなみちゃんとななみちゃんはいたよ。2人とも仲良く話してたよね?」


ほなみちゃんはロングの髪を軽く揺らしながら微笑んだ。


「そうですね。菜々美先輩と一緒に本の話をしてました。」


私はうなずいて、「そうそう、咲さんが来たのはその後だったよね。」と付け加えた。


すみれは悔しそうに髪を揺らしながら、「ほなみちゃんとナナミンはどっちが先だったのよ」と私たち2人に問いただした。


「部室に向かっている途中でほなみちゃんとばったり会って、一緒に来たから、ほなみちゃんが犯人ではないと思う。私たちが来る前、部室には誰もいなかったよ。」


私は嘘をつかず、真実のままに話した。

ほなみちゃんは「ですです!」と頷いていた。


アリバイのある3人に、困惑したすみれは頭がパンクしそうになっていた。


「じゃあ誰が食べたんだ……」


すみれは悲しそうな顔で俯いた。


何かを思い出したほなみちゃんが突然立ち上がり、「私たちが来る前に、誰かがこの部室に来ています!!」と目を輝かせながら断言した。


すみれの悲しい顔がふっと明るくなり、「誰なの!?」とほなみちゃんに近づいて顔を近づけた。


「誰かは分かりません…」


「そうですかい…」


すみれは再び悲しげな表情に戻った。


ここで私もとある事を思い出す。

ほなみちゃんと部室に入る時に鍵が開いていた事に…

そこで1つの可能性が私の頭の中に浮かんだ。


「すみれ、ひとついい?」


「どうぞ?」


「あのさ、ここに私たちが来る前に鍵開いていたんだよね……という事は私たちより先に部室に来て鍵を開けた人がいる。私はそれがすみれなんじゃないかな〜って思ってきたんだけど……?」


すみれはよく、こじつけで事件を作ることがある。

学校が平和で探偵部としての活動がなかなかできていないので、私たちに退屈にさせない為に毎回事件を作ってくれている。

つまり、今回の件もすみれが食べたプリンを、誰かが食べたことにし、事件として取り扱ったのではないかと考えている。

つまり自作自演だ。


「何言ってんの!橘はそんなことしないよ!ナナミンのぺちゃぱいに誓って言える!」


すみれは意外と冷静に否定しながら私の方へ歩き、突然胸を強引に揉んできた。


「揉んでんじゃねぇ!!誰がぺちゃぱいだぁー!!!」


すみれにアッパーを食らわせた。

すみれは上手くソファの上まで吹っ飛び、気絶した。


成長期の乙女の胸をいやらしく触り、それをぺちゃぱいだなんて許せない。

もうプリン失踪事件なんてどうでもいい!

そう思っていた私に、咲さんが「まぁまぁ落ち着いて」と私の肩を叩いた。


仕切り直して、気絶しているすみれをソファに休ませながら3人で情報を共有しながらまとめた。


すみれが起きるまで捜査を中断することにした。すみれの自作自演の可能性が高いからだ。


嘘をつくのが苦手なすみれがあんなに冷静でいられるはずがないと思ったが、めんどくさくなってその考えを捨てた。


「はぁ〜、なんだか疲れちゃったなぁ……」


咲さんはそう言いながら紅茶を用意し、1口飲んだ。


「そうですね、すみれ先輩にはいつも振り回されてばっかりです。でもそれが楽しい。」


ほなみちゃんは窓を見ながらそう言った。

外はもう夕日に暮れていた。


「事件が欲しいならいつでも私がプリンを勝手に食べてしまうのに」


私が冗談を交えて言うと、2人は「ふふっ」と笑った。


「毎回ななみ先輩が食べてたら犯人がバレちゃいますよ(笑)」


「確かに(笑)」


私たち3人は気絶しているすみれの顔を見ながら笑っていた。

そんな時…


ドーン

部室のドアが勢いよく開かれた。

「遅れてすみませーん!!!先生に捕まってました!かきざわなぎさ、ただいま参上!!!」


1年生の柿沢凪砂(かきざわなぎさ)が手を上に掲げ登場した。

彼女は金髪セミロングの髪を1つ結びにしており、赤い瞳をしている。

少しギャルっぽい見た目をしているが、中身はそこまでギャルという感じはしない。すみれと同じように自由奔放で破天荒な部分がある。


「なぎちゃんやっほー!」


私たち3人はそれぞれなぎちゃんに挨拶をする。

なぎちゃんは登場して直ぐに、ホワイトボードにある文字を読んだ。


「プリン失踪事件?なんですかそれ(笑)誰かが先輩のブリンを食べたとか………あっ……」


なぎちゃんは急に汗をかき始めた。

急に焦りだし、挙動がおかしくなっている。


すみれを疑っていたが、結局犯人はこの子だったのか……


「もしかして、なぎちゃん私たちが来る前に部室に来てたりする?」


咲さんはにっこりとしながらそう言ったが、目の奥は笑っていなかった。


怒ってはいなだろうが圧をかけた方が面白そうだから、ちょっと怒っている感を出しているのだろう。


なぎちゃんはそれにビビり震えていた。


「き、来ていませんよ…それにメロン風味のプリンなんて食べませんよ…」


この一言により、なぎちゃんが犯人であることが確定した。


「誰もメロン風味のプリンとは言ってないし、そもそも知らなかったんだけど?」


なぎちゃんの反応が面白いので、追い討ちをかけてみる。


「い、いや違いますよ?探偵の感ってやつです!では、なぎさは家の用事があるので!」


なぎちゃんは振り返って部室を出ようとする。


その時、すみれが目を覚ましなぎちゃんに飛びかかった。


「プリンを食べたのは貴様だったのかなぎさぁー!!!」


「ごめんなさぁぁぁい、許してください!」


「そんなん許せるかぁー!!プリンのようにぷりっぷりな胸を持っているくせに!!!」


飛びついたすみれはなぎちゃんの大きな胸を激しく揉んでいた。


揉まれているなぎちゃんは涙を流しながら謝罪していた。

この光景に私は我慢できなくなり……


「後輩にセクハラするなぁ!!!」


すみれに再びアッパーを食らわせた。



これにて今日の探偵部は終わり、私は気絶したすみれを背負って家まで送った。

家に着くと同時にすみれは目を覚ました。

私の背中から飛び降り、綺麗に着地した。

そして飛びっきりな笑顔と元気な声で私にこう言った。


「またね!!!」


これが楽しくておかしい私たち探偵部の日常である。



しかし、この時の私たちはまさかこんなことが起こるとは思ってもみなかった……


続く……

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