第28話 VS日本滅亡の危機


 爆発の直後、僕の目の前に立っていたのは厳つい顔つきをした角付きの化け物――いわゆる赤鬼みたいな風貌の奴だった。


 爆破の衝撃で気絶した皆を庇っている僕に対して「面白い」とか言ってきたけど、ぜんぜん面白くないだろ。


「貴様、名を名乗ってみろ」


 怒り心頭の僕に対し、偉そうに命令してくる赤鬼。


「人に名前を聞きたいんだったら、まずは自分から名乗るべきだろ?」

「生意気な小僧だ」


 こういう時は相手のペースに乗せられないことが重要である。


 ド派手な攻撃を使ってきたところから見ておそらくパワータイプだけど、精神に作用する妖術を使って来ないとは限らない。


 前にフードコートで妖術使いのおば……お姉さんに襲われたことからして、怪異の中には奇妙な術を使ってくる奴がいることは確実だ。


 後になって考えてみると、お姉さんが止めていたのは時間ではなく、周囲の人間の認識だった。


 だからこそラーメンの時間は止まっていなかったのだ。


 このように、冷静に考えれば理解できても、精神的に乱されていたら正常な判断ができなくなってしまう。


 つまるところ、ああいった類の術は精神的に追い詰められている時ほど効きやすくなるから、相手に流されないことが重要なのである。


「……まあ、今すぐ攻撃をやめるなら名前くらい教えてやってもいいけど」


 ちなみに、赤鬼は姿を表してからずっと攻撃を続けている。


 空気が揺らぎ、周辺の地面が溶け始めているところからして、おそらく高熱を発する類の術か何かだろう。


 僕が魔法障壁マジックバリアを解いたら、足元に倒れている紬たちが一瞬で消し炭になってしまうことは間違いない。


 この魔法を使っている時はあまり動けないので、今のところ赤鬼とは膠着状態に陥っていると言っていい。僕一人が助かったところで何の意味もないから、実に厄介な状況だ。


「我は攻撃などしておらんぞ? ただ近寄るだけで形を保てなくなる脆い人間が悪いのだ」

「悲しきモンスターってやつか」


 この上なくタチが悪いな。


「……まあ良い。答える気がないのであれば、力ずくで聞き出すまでのことだ」


 赤鬼が言いながら手を振り上げると、再び周囲の空気が震え始め、轟音が鳴り響く。


「――我はその中の神薙という人間に用がある。肉さえ手に入れば死んでいても構わん」

「…………!」


 刹那、上空から激しい雷が降り注ぎ、僕の展開した障壁をさらに削った。


「貴様ら四匹のうち、どれが神薙だ?」

「……さあね」


 先ほどの爆破もこの雷によるものだろう。


 その威力は僕が全力で放つ雷撃ライトニングボルトとほぼ同等。


 灼熱を発する力に加えて、雷まで落としてくるとは……つくづく面倒な相手だな。


 おそらく、コイツが咲ねえ達の話していた日本滅亡の危機ってやつの正体だろう。


「貴様、随分と硬いな。本当に人間か?」


 やがて赤鬼は雷での攻撃をやめてそう言った。


「残念ながら、雷の攻撃はあまり効かないよ。――僕も使えるから」


 僕は一瞬だけ魔法障壁マジックバリアを弱め、無詠唱の雷撃ライトニングボルトを赤鬼に直撃させる。

 

「……なるほどな。つくづく癪に触る小僧だ」


 見たところノーダメージみたいだが、怒らせることには成功した。


「さっきは面白いとか言ってなかった?」

「黙れ」


 少しずつ赤鬼から余裕そうな表情が消えていっている。見かけ通りの短気だな。

 

「いい加減、もう片方の攻撃もやめて欲しいんだけど」

「……ほう。これがそんなにいやか」

「………………」


 赤鬼は不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。


「どうだ、我が近づけば近づくほど熱くなるぞ? 貴様のそれはいつまで耐えられるかな?」


 赤鬼の言う通り、向こうの距離が近づくにつれて魔法障壁のダメージが増していることが伝わってきた。


「ぐっ……!」

「ほうら、貴様が気張らねば後ろの者たちが蒸した豚のようになってしまうぞ? もっと頑張れ」


 障壁が剥がれかけ、内側にまで熱が伝わってくる。


 僕はクラウ・ソラスをしっかりと握り直した。


「……これでしまいだな。少しは愉しめたぞ、小僧」

「や、やめろ……!」

「貴様が弱いから皆死ぬのだ。良い学びになったなぁ?」


 間近に立った赤鬼は、そう言いながら指先でもろくなった障壁に触れる。


「もっとも、すぐに死ぬのだから大した意味はないがな」

「う、うわーーーーーーーっ!」


 その瞬間、僕の展開していた魔法障壁はボロボロと崩れ落ちて完全に破壊された。


 ――同時に、赤鬼の首がぼとりと地面へ落ちる。


「……なんてね」

「あ……?」

「わざわざ間合に入ってきてくれてありがとう。助かったよ」


 こちらが動けないのであれば、向こうから寄ってくるように仕向ければいい。ただそれだけの話だ。


「な、なぜッ」


 僕は落ちた赤鬼の首に聖剣を突き立てる。


「何故こんなことをしたのか……どちらにしろ、障壁を壊されれば貴様が必死に守っていた者達は焼け死ぬのだぞ……とでも聞きたかったのか?」


 続けて、残った赤鬼の胴体の方をバラバラに斬り刻みながらこう続けた。


魔法障壁マジックシールドは別に僕が中に居なくても張れるんだよ。お前が得意げに壊したのは見せかけの一枚目だけだ」


 紬達は、僕が赤鬼と問答している間にこっそりと背後で展開させた障壁によって今も守られている。


 僕が本当にされたくなかったのは、あのまま遠距離から灼熱と雷の攻撃を撃たれ続けること。相手の力量次第では先にこちらの魔力が尽きていた可能性もあった。雷の攻撃も普通に効くからヤバいし。


 ――だいたい、雷を扱えるから雷が効かないなんて、インチキすぎるだろ。どんな体してるんだ! ふざけやがってこの鬼め……!


「くそっ……くそおおおおッ!」

「まだ喋れるのか……お前……」


 まあ要するに、コイツが勝利を確信して向こうから近づいてきた時点で勝敗は決していたのだ。


「……一つだけ言っておくと、お前はもっと考えて戦うべきだったんだよ。良い学びになったな?」

「ぐぁっ……ぁぁッ!」


 僕は消滅していく赤鬼の首に向かって再び聖剣を突き立てながらそう言い放った。


「――ああ、もう死んじゃったんだから何の意味もないか」


 我ながらクールに決まったぜ……!  


 今の僕、過去最高にカッコいいよ!


「…………あっつ!」


 でもちょっと火傷したから手が痛い!

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異世界帰りの勇者、怪異が蔓延る現世で無双してしまう~魔物退治の次は妖怪退治とか聞いてません!~ おさない @noragame1118

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