第27話 退魔塾襲撃
「……とにかく、今後は生徒三人と教師一人の団体で行動することが多くなるだろうから覚えておけよ」
主に僕のせいで色々と誤解もあったが、ひとまずそうまとめて話を終える咲ねえ。
「さてと……顔合わせも済んだから私は帰るよ! バイバイつむぎん、遥人くん!」
それからすぐ、何故か
「おい待て。なに勝手に帰ろうとしてんだ」
当然のごとく咲ねえに引き止められ、きょとんとした顔で振り返る楓薫。
「えっ……? だって、ゆっきーはしばらく休んでいいって言ったよ? 先生が変わってもそこは変わらないでしょ?」
どうやら前の……というより僕が殺した先生から休みをもらっていたらしい。なんかごめんなさい。
僕がそんな風に心の中で謝っている間も、楓薫はどんどんヒートアップしていく。
「だいたい、上一級案件の怪異が各地の結界に閉じ込められてて、解放されたらすぐに日本滅亡の危機なんだよ?! もう休みとかじゃなくて国外に逃げた方がいいじゃん! 私ハワイに行く!」
「落ち着け。……確かに、お前たちの報告のおかげで各地に隠されていた危険な怪異入りの結界がいくつも発見されているのは事実だが……騒動の首謀者の方も既に処刑済みだ。よって、それらが一斉に解放される心配はない」
日本滅亡とか処刑済みとか物騒な単語が出てくる会話を繰り広げる二人。
……もしかして、今ってものすごくヤバい状況だったりするのかな?
「上一級退魔師が時間をかければ結界の封印はできるから、私達のやるべき仕事はその間のサポート……つまり手に負える危険度の怪異をなるべく多く祓うことだって……さっき教えたよ楓薫ちゃん」
「あ、あれ……? そうだったっけつむぎん……?」
「……聞いてなかったんだね」
「ごっ、ごめんよつむぎんっ!」
それ、僕は何も説明されてないんだけど。
日本滅亡の件から詳しく教えてよつむぎん。このままだと僕、不安で夜も眠れないよ!
「……とにかく、そういうわけだ。鳴瀬にどう言われたかは知らないが、残念ながらしばらくは休めないぞ」
「そんな……!」
楓薫は大きなショックを受けたらしく、膝から崩れ落ちた。これがブラック労働の実態である。
……そして、僕は完全に蚊帳の外で置いてけぼりをくらっている。
「というわけで、今からお前たち三人組の初任務を――」
咲ねえがそこまで言いかけた直後、僕の手元にクラウ・ソラスが出現した。
「…………ッ!」
命の危険が迫っているらしく、時間がゆっくりと流れ全てがほぼ静止して見える。
空気の震えのようなものは感じるが、目視した限りでは周囲に異常はなく、敵の正体が掴めない。
――何が起きたのか把握しきるより前に、退魔塾は爆発によって丸ごと吹き飛んだ。
*
退魔塾は結界によって外界から隔絶された山奥に存在しており、退魔師にのみ共有されている儀式的な手順を踏むことで一瞬でアクセスできるようになっている。
従ってその攻撃に巻き込まれた民間人は存在せず、退魔塾に居合わせた四人だけが直撃をくらったことになる。
建物はおろか、周囲の半径400メートルほどが深く地面の抉れた更地と化し、山が跡形もなく消えてしまっていた。
辺りには禍々しい殺気と悍ましい邪気が立ち込め、並の退魔師では足を踏み入れることすら叶わぬ魔境と化している。
「おっと、久々のことで力の加減を誤ってしまったようだ」
遥か上空からこの地獄のような状況を生み出した一体の赤鬼が飛来し、降り立つ。
「これでは、神薙の生き残りとやらも消し飛ばしてしまったかもしれんな」
腕を組み悠然と構えながら言ったのは、鬼神魔王――
「わざわざこちらから出向いてやったのに、とんだ骨折り損だ。人は脆いな」
退屈そうな表情で更地を歩く大嶽丸。
しかし、彼はそれほど進まないうちに歩みを止めることとなる。
「――
立ち込める煙の中に、ただの人間の息遣いを感じたからだ。
「……ほう」
死の大地と化したその場所で、勇者だけが立っていた。
「今のは、本当に死ぬかと思ったぞ……。僕以外のみんなが……!」
――足元で気絶している他の三人を庇うようにして。
「面白い」
大嶽丸は愉しそうに嗤った。
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