第26話 秘密の関係
組織ぐるみの隠ぺい工作によって殺人罪を免れた僕は、翌日の休み明けもごく普通の高校生として学校生活を送ることができた。
ぼんやりとしているうちに帰りのホームルームが終わり、放課後がやってくる。後はこのまま早々に帰宅するのがいつもの流れなのだが、退魔師になったので本日をもって帰宅部は退部だ。
僕は紬の教室へ向かい、入口の近くに立つ。それからしばらくの間待っていると、紬が見知らぬ女の子と一緒に外へ出てきた。
「あ、遥人」
「やあ紬。それと……」
――隣の女は誰よッ! と聞きたいところだが、普通に考えて友達か何かだろう。いつも一人で帰っている僕の方がおかしいのだ。
「私は
「どんな噂かは知らないけど……確かに僕は紬のお兄ちゃんだよ」
三善楓薫という名前は昨日聞いたな。確か、僕と同じ霊剣使いの退魔師なんだっけ。
「なるほどー! 近くで見ると本当にそっくりだね! まさに双子って感じだよ!」
三善さんの言葉に対し、僕と紬はほぼ同時に「それはない」と否定した。
「そこまでシンクロするんだ……!」
すると何故か感動される。
「……とにかく、よろしく三善さん。僕も今日から退魔師だから」
「ダメだよ遥人お兄ちゃん!」
僕の挨拶にダメ出しをしたのは、紬――ではなく三善さんだ。
「別に三善さんのお兄ちゃんではないけど……」
「私達はこれから一緒に命をかけて怪異と戦う仲間なんだよっ!? 三善さんなんて呼び方……あまりにも
「……………………」
一理ある。
言われてみれば、エインとかメフィアのことも最初から普通に名前呼びだったし、あまり距離は作らないほうがいいのかもしれない。
……でも、エインは僕のことハルト様って呼んでたな。改めて考えると恥ずかしすぎるだろその呼び方。異世界で敬語キャラだったからすんなりと受け入れちゃってたけど。
「分かったよ。じゃあ……
「え……」
僕の問いかけに対し、三善さん何故か顔を少しだけ赤らめる。
「あっと……そ、そうだね……! 最初は三善くらいから始めてもらうつもりだったけど……意外と大胆なんだね……っ!」
どうやらお互いの認識に齟齬があったらしい。まあ、面倒だからこのままでいこう。
「うん。じゃあ、改めてよろしく楓薫」
「よ、よろしくお願いします……遥人、くん……」
むしろさっきより距離が開いた気がするぞ。
「………………」
ちなみに、紬は黙ったまま横目で僕たちのやり取りを見ていた。おそらく呆れているのだろう。
「とにかく、全員そろったから出発しようか!」
「……新米の遥人が仕切らないで」
――久々の発言が僕に対する説教だった。紬は意外と上下関係を重んじるタイプらしい。ヤンデレで体育会系とか……怖い先輩だなぁ。
「たぶん照れ隠しだから、気にしないで遥人くん!」
楓薫は僕にそっと耳打ちした。どうやら、気難しい紬との付き合いは彼女の方が上手いらしい。頭が下がる思いである。
……そんなこんなで、僕たちは三人で退魔塾へと向かうことになったのである。
*
十数分後、退魔塾に到着すると玄関口に咲ねえが立っていた。
「三人とも聞いていると思うが、鳴瀬は諸事情で教師を続けられなくなった。……よって、今日から私がお前たちの先生をやる。――念のため自己紹介をしておくと、一級退魔師の
咲ねえは僕たちに合流するなりそう説明する。先生の交代に関しては楓薫にも伝えてあったらしい。そして、鳴瀬先生の件に関しては隠す方針でいくようだ。
「きっと、私とつむぎんを危険に晒したから責任を取ることになっちゃったんだね……! ゆっきー……哀れな奴よ!」
つまり、この中だと楓薫だけ事実を知らないことになる。少しだけ気まずいな。騙してるわけだし。
「……よろしく、咲ねえ」
鳴瀬先生に関して僕が何か発言するとボロを出してしまいそうなので、とりあえず挨拶だけしておくことにした。
「お、おい馬鹿っ! せめて咲耶先生って呼べっ!」
しかし、それでも咲ねえに怒られてしまう。
「あっ」
そういえば、一緒に暮らしてるとかの話も大っぴらにしないでおこうって昨日の夜に決めたんだっけ。プライベートな関係を仕事に持ち込むのは良くないとか何とか咲ねえから言われた気がする。
――たぶん人前で咲ねえって呼ばれるのが恥ずかしいだけだと思うけど。
「ど、どういうこと? 咲耶先生と遥人くんってそういう関係なのっ?!」
だが、察しのいい楓薫にはもうバレてしまったようだ。もはや隠しても仕方ないだろう。
「うん、実はそうなんだ。……ごめんね咲ねえ。僕たちの関係のことは秘密にするって……昨晩の話し合いで決めたのに……」
「さ、昨晩も語らい合ったのッ?!」
「変な言い方をするなっ! 余計に誤解されるだろっ!」
咲ねえはこの期に及んでごまかすつもりなのだろうか? もう無理だと思うけど。
「遥人くんはまだ私たちと同い年なんだよっ!? そんな男の子を誑かすなんて……先生としてどうなのっ? これ、未成年なんちゃらで警察呼んだ方がいいっ?!」
これ以上ないくらい顔を真っ赤にして叫ぶ楓薫。
僕の言い回しのせいで余計に状況が複雑化してしまったかもしれない。もう黙ってた方がいいかも……。
「私はコイツらの保護者だ! 変な妄想をするな!」
咲ねえが大声で真実を話すと、楓薫の方はしばらくの間固まる。
「えー、すご! 癒着じゃん!」
そして開口一番にそう言った。
「確かに。言われてみれば……!」
「癒着じゃねえっ! 色々と人手不足なんだよっ!」
咲ねえの叫びが虚しくこだまするのだった。
かくして、癒着した退魔師パーティが始動することとなったのである。
……ちなみに、紬は黙ったまま横目で僕たちのやり取りを見ていた。間違いなく呆れているのだろう。
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