第19話 真夜中の訪問者
「はっ?!」
怒ったミタマによって心象世界から追い出されてしまった僕は、必然的に目覚めることとなる。
現在の時刻は夜中の三時だ。どうせなら追い出された後はそのまま気絶するように寝かせて欲しいんだけど、あれ自体が夢の中みたいなものなので無理やり出て行くと目が覚めてしまうのだ。
「やれやれ……ワガママ狐娘の遊び相手も中々に大変だぜ……」
僕はクールにそう呟いた。今のはそれなりにカッコよかったと思う。たぶん。
「さてと、朝までどうしようか――」
そこまで言いかけて、ベッドの脇に再び聖剣が出現していることに気づいてしまう僕。
「な……」
えっと……マジですかクラウ・ソラス先輩? さっきまで最強のお城を造ってたんじゃ……?
「……もう五回目だぞ」
いくらなんでも異常すぎる。一体、いつからこの世界は異世界並みに危険な場所へと変貌してしまったんだ。僕は平穏な暮らしがしたいのに。
あまりの頻度で危険が襲いかかって来るので、思わず冷や汗をかいていたその時。
――ピンポーン、とベルの音が鳴った。
どうやら、誰かが夜中の三時にこの家へ訪ねてきたらしい。非常識にもほどがある。
「こいつか……!」
今度の敵はむこうから出向いて来てくれたようだ。まず間違いなく罠だけど。
基本的に酔い潰れている咲ねえは何をされてもこんな時間には起きないが、紬の方は分からない。
しっかりしているようで意外に抜けている――というか素直すぎるところもあるので、こんな見え見えの露骨トラップに引っかかって外へ出てしまうかもしれない。
……つまり、ここは僕が急いで応戦――もとい応対するしかないということだ。
「
僕は気配を消す魔法を唱える。
この魔法の効果時間は一分前後で、こちらから攻撃を仕掛けると強制的に解除される決まりだ。おまけに大きな音を立ててしまった場合は普通に気づかれることもあり、魔力もそこそこ消費するので扱いの難しい魔法である。
まさか、こっちでも使うことになるとは思わなかったぞ。
とにかく時間がないので、僕は急いでクラウ・ソラスを手に取り窓から飛び降る。そして、なるべく音を立てないようにしながら玄関の方へと回り込むのだった。
「………………!」
そこに立っていたのは、スーツを着た髪の長い男の人だ。何となくだけど気障な印象を受ける。普通の人だったとしても一発ぶん殴りたいな。
……一瞬だけ紬の担任の先生かとも思ったけど、たしか違う。こんな時間に訪ねてくるなんてまず有り得ないしね。
ともかく、クラウ・ソラスは目の前に居るこの男がワルモノだと言っている。……更に付け足すとすれば、近くでコイツのことを見張っているより強大な何かの力を感じる。
つまるところ、玄関に立っているコイツは僕を誘き出すためのダミーである可能性が高い。……今まで連続して襲ってきた化け物たちは、全員が神薙の血とやらを狙っていた。つまりは仲間である。
それを全て僕が返り討ちにしてしまったので、向こうも慎重になって探りを入れに来たのだろう。
今のところはミタマが変化させられていたカオナシもどき以外、命の危機を感じるほどの強さではなかったけど……今後もそうとは限らない。易々と僕の手の内を晒すのは得策ではないだろう。
コイツを監視している奴に見つからないよう、素早い一撃で仕留めるしかない。
僕はクラウ・ソラスを脇に構え、全神経を集中させる。
「――
そして身体強化魔法の詠唱と共に、最速の一閃で男の首を刎ねた。
斬り落とされた首は道路の方へ転がっていき消滅。残った身体の方も黒い影に包まれて消えていった。まったく手応えを感じないのでやはり罠だったようだ。
「
念のため、再び魔法で気配を消しておく。
後は残った本体の方を仕留めたいところだが、残念ながらダミーを討伐した時点でクラウ・ソラスも同時に消失してしまった。
つまるところ、敵は初めから近くには居なかったのかもしれない。
僕が感じ取っていたこちらを監視する強大な気配は、先程の男にまとわり付くようにして漂っていたもの。もしかすると、相手も千里眼的な力でダミー越しに様子を探ることができるのかも。
……でも僕、オカルトとか呪術とかぜんぜん詳しくないから分かんないな。妖怪って千里眼とか使えそうだからそこまで間違った推理じゃないと思うけど……。時間止める奴もいたんだし。
一つだけ言えることは、差し迫った危機は去ったということだけだ。
こちらも正体を晒さずにダミーを倒したわけだから、向こうも多少は驚いているだろう。迂闊に手を出そうとはして来ないはずだ。……たぶん! 勘だけど!
敵の正体が掴めていない以上、しばらくは様子を見るしかない。ミタマが記憶を取り戻せばもう少し分かりそうなんだけどな……。
でも本当に……僕はどうしてこんなに狙われているんだろう? 実は妖怪達の間で黒毛和牛的な存在になってたりする? やっぱり勇者って美味しそうなのかな?
――ともかく、百歩譲って僕が化け物に付きまとわれるのは良いとしても、紬や咲ねえに危険が及ぶのは絶対に避けたい。
二人の安全を考えた場合、僕はずっと家に居る方がいいのか、それとも外を歩き回っていた方がいいのか……悩ましいところだな。
相手の様子を探る十秒くらいの間で長々とそんなことを考えていると、唐突に玄関の扉が開いた。
「……誰も、いない?」
そう呟きながら外へ出てきたのは、パジャマ姿の紬だ。僕もパジャマだけど、今はそんなことどうでもいい。
いくら何でも警戒心が無さすぎるよ紬!
「今の霊力……気のせい?」
僕が物陰に隠れておろおろしていると、紬は白い人型の紙を取り出しながらそう言った。
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