第16話 ミタマノツルギ
「……来たか、神薙――」
「ライトニングスラーーーッシュ!」
「ぐあああああああああああッ!」
クラウ・ソラスにせがまれワルモノが居ると思しき公園にやって来た僕は、明らかに怪しい不審者を聖剣で上下真っ二つに斬った。
「お、おのれッ! なぜぇッ!」
身体を消滅させながら僕のことを睨みつけてくる男の人。
いや、だって……初対面なのに僕の苗字を知ってる奴なんて、どう考えても悪い奴だからね。会話をする必要性すら感じない。先手必勝というやつだ。
「ライトニングボルトッ!」
「ぎゃああああああああああああッ!」
そもそも、人違いだったらクラウ・ソラスで斬れないし。
そんなこんなで、戦いの決着がついたのである。
「き、貴様は……
「……コオロギ?」
ちなみに、ここはおととい僕が深夜徘徊をしていた時にお化けサイズコオロギと出会った因縁の公園だ。思えばあれ以来、変なのに襲われ続けていてこまっている。
要するに、コイツの口からコオロギという言葉が出てくることの意味は一つだ。
「お前……あのお化けコオロギの親玉だったのか!」
「くっくっくっ……!」
「ライトニングボルトッ!」
「がはぁッ!」
不気味に笑いながら消滅する不審者。最後まで変な奴だったな。細長い見た目の割に結構しぶとかったし。
……まあ、全ての元凶は今の人だったっぽいから、これから先は化け物に襲われることも無くなるだろう。一件落着というやつである。たぶん。
「さてと。帰って寝よ――」
僕がそう呟いた次の瞬間、
「マダ、ダ……!」
「マダ、終ワッテ……イナイ!」
「我々ガ相手ダ」
複数の巨大コオロギ達が地面から這い出してきた。
「ギイィィィィィィィ!」
「ギシャアアアアアッ!」
耳を塞ぎたくなるような不快な音を発生させながら、僕の方へにじり寄ってくるコオロギ達。
「ライトニングスラッシュ!」
当然、僕は問答無用で先程と同じ技を放つ。
「ギャァアアアアアアアアアッ!」
「グアアアアアアアアッ!」
こうして巨大コオロギ達は跡形もなく吹き飛び、呪いとやらを受けずに済んだのだが……。
「あ、あれ……?」
ライトニングスラッシュの威力が強すぎたらしく、辺り一帯が丸ごと吹き飛んでしまった。
どうやら、短期間に連続して戦い過ぎたせいで勇者の力がかなり戻って来てしまったらしい。力加減を少しミスしただけでこのザマである。
「これ……ちょっとまずくない……?」
更地になってしまった公園を見渡しながら、僕はそう呟いた。
クラウ・ソラスでの攻撃なので、普通の人は巻き込まれても平気だから心配ないけど……公園が丸ごと吹き飛ぶとか、確実に大ニュースになってしまう。
洒落になってないぞ……!
「ど、どうしよう……?」
想定外の事態に頭を抱えていたその時。
「お困りのようじゃな、お前さま?」
突然、脳内に先ほどの狐娘――ミタマの声が鳴り響く。
「妾の力を貸してやろう。この程度であれば、一瞬のうちに修復できるぞ」
それはもの凄くありがたい提案だが、本当にそんなことが可能なのだろうか?
更地を元通りに修復するなんて、エインやメフィアの魔法を持ってしても無理な芸当なのに……。
「まあ、妾に任せておくが良い」
あと、しれっと人の心を読んでくるのはやめて欲しいな……恥ずかしいから。
「……たった今、くらうそらすから聖剣の力を奪い取ってやったぞ! 見た目が変わっているじゃろう?」
そう言われたので手元の剣をよく見ると、確かにデザインが少しだけ変化していた。
具体的に言い表すのは難しいけど、なんとなく和風っぽい気がする。
「妾お手製の神剣……名付けて――
割とそのまんまなネーミングに関してはノーコメントとさせていただく。
「それを先程の『らいとにんぐすらっしゅ』とやらの剣筋と逆に振れば、辺りはたちまち元通りになるじゃろうて」
「そんなすごいことが……!」
「ふふ、妾を甘く見るでない」
流石は神様を名乗るだけのことはある。ただのちんまり狐娘ではなかったようだ。
「えっと……それじゃあ、今から振ってみるのでよろしくお願いします」
「ふ、夫婦初めての共同作業というやつじゃな……っ!」
「結婚した覚えはないけど」
それから僕はミタマに言われた通り、ライトニングスラッシュの動作を逆再生するようになぞってみる。
「こんな感じ……かな……?」
すると、更地になっていたはずの公園はたちまち元に戻ってしまった。
「これが神の力じゃ!」
こうして、公園消失事件が明日のニュースになることは免れたのである。めでたしめでたし。
「……助かったよミタマ。ありがとう」
「よい、お礼は後でたっぷりとしてもらうからのう」
「え……?」
「ふっふっふっ!」
僕に不穏な言葉を残して消え去るミタマの剣。
今の言い方からして、寝ている時に心象世界へ呼び出されるのだろう。一体何をさせられるんだ……?
「………………」
強大な力にはそれ相応の代償が伴うということか。
僕は何となく嫌な予感がしつつも、流石に眠いので帰って寝ることにした。
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