第12話 もしも世界が滅びるなら
傑作だった。
「まさか、平安時代とゾンビの間にあんな関係があったなんて……!」
「どんでん返しやばすぎ……! やっぱり面白かった……!」
早めに家を出て電車を乗り継ぎ、少し遠くにある大きめのショッピングモールの映画館へとやって来た僕と紬は、大満足でシアターを後にする。
「
「でも実は生きててシュテンゾンビとのラストバトルで駆けつけてくれるの、めっちゃ熱かったなぁ……!」
「わかる!」
まさかここまでの名作だとは思わなかった。完全に僕の負けである。見てもいないのにクソ映画だとか思ってすみませんでした。
「ラストの江戸時代でゾンビが目覚めるシーンは次回作の伏線なのかな?」
「絶対そう! たぶん『ゾンビVSサムライ』をやるんだと思う……!」
「僕は『ゾンビVSスモウトリ』だと思うなあ」
今から続編が楽しみである。
「でも、こんなに面白い映画を二日酔いのせいで見に来れないなんて、咲ねえも間が悪いなあ」
「……あらすじ話したら『クソつまんなそう。シラフでそんなもん見てたら気が狂うぞ』って言われた。何も分かってない」
「分かってないなぁ……っ!」
僕は拳を固く握りしめた。
「仕方ないから、咲ねえの分までもう一回みよ!」
「えっ?」
だが次の瞬間、唐突に紬が意味の分からないことを言い始めたので僕は冷静さを取り戻した。
「も、もう一回……?」
いくら面白い映画でも、流石に二回も続けて見る気にはなれない。
「……他にも面白い映画、あるんじゃないかな?」
「例えば? どれ?」
「ええっと……」
さり気なく他の映画にしようと誘導してみるが、僕が追い詰められただけだった。映画館とかほとんど来ないからどれが面白いヤツなのか分からない。
すでに一回予想を外しているので、自分のセンスがまったく信用できないのである。
「うーん……」
「やっぱりないじゃん。『ゾンビVSオンミョウジ』をもう一回見るべき――」
紬が勝ち誇ったような表情をしながらそう宣言したその時、ぐぅという音が鳴った。
「……………」
途端にお腹の辺りを抑えて恥ずかしそうに下を向く紬。どうやら紬のお腹が鳴っていたようだ。そういえば、ポップコーンとかチュロスとか一切買わずに映画見てたからな。朝もそんなに食べてないし、お腹がすくのは当然である。
「とりあえず、何か食べてから考えない? もうすぐお昼だし」
「……そうする」
紬は恥ずかしそうにお腹の辺りを押さえながら頷くのだった。同じ映画を二回見ずに済みそうなので僕としてはナイスタイミングといったところか。
*
というわけで、僕達はショッピングモールのフードコートへ移動した。
僕が注文したのは普通の塩ラーメンで、紬は濃厚半熟卵とグアンチャーレのスパゲッティ・アッラ・カルボナーラ である。
ちなみに、料理は僕の方が先に出来た。呼び出しベルが鳴ったので塩ラーメンを受け取りに行って戻って来ると、紬が何とも言えない表情でこちらを見てきている。
「先に食べるね。ほら、ラーメンはもたもたしてると伸びちゃうものだから」
「い、いちいち言わなくていいし」
そういうことらしいので、僕は遠慮なく麺を啜り始めた。
「じー……」
空腹の紬からじっと見つめられているので正直食べづらい。
「遥人はさ……もうすぐ世界が滅んじゃうってなったらどうする?」
僕が麺をすすっていると、唐突にそんなことを聞いて来る紬。
「紬、何か悩みでもあるの?」
思わずそう返事をする。
「ううん……。ちょっと……考えただけ……」
なるほど分かったぞ。終末論でも唱えてる変なオカルトサイトを見て不安になっちゃったのか。紬は警戒心が強い割に素直で騙されやすいからな。
ここは一つ、真実を話して安心させてあげよう。
「もちろん、僕が世界を救うから心配しなくていいよ!」
世界が滅んだら僕も困っちゃうからね。異世界の時だって魔王を倒せば元の世界に帰れるらしいって話だったから頑張ったわけだし。
「最近、勇者の力がこっちの世界でも使えることに気づいたんだ!」
よし。これで紬も安心してくれることだろう!
「……聞いて損した」
しかし、返ってきたのは羨望ではなく失望の眼差しだった。
「そんな……!」
紬はいくら話しても僕が異世界帰りの勇者だって信じてくれないから、こうなることは分かりきっていたはずなのに……!
「……まあ。冗談は……ともかく……世界は広いんだから、きっと滅びないように頑張ってくれてる人もいるだろうし……なんとかなるでしょ!」
仕方がないので、当たり障りのない適当な答えに切り替えていく。
「……そっか。……うん、そうだよね」
しかし、何故かこっちの方が紬の心に響いたらしい。そこまで素直に納得されると拍子抜けだ。
「私、頑張る……!」
なるほど。どうやら妹は遅めの中二病を発症してしまったようだな。さっきの映画に影響されたか。
「なんだか知らないけど、がんばれー!」
こういう時は生暖かい目で見守ってあげるに限る。
僕が心の中で密かにそう思っていると、紬の持っていた呼び出しベルが鳴った。
「……ありがと」
何故か僕にお礼を言って、注文した半熟卵となんとかのなんとかカルボナーラを受け取りに行く紬。
わけが分からないけど、悩みが解決したみたいで良かった。
僕が得意げに麺をすすって顔を上げると、世界の全てが止まっていた。
「…………え?」
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