第10話 VS妖刀使い
「ど、泥棒?!」
何者かの声に驚きながら背後へ振り返ると、いつの間にか開いていた窓から腰に帯刀した男が侵入してくるところだった。
「まァ、そんなところかな。もっとも、盗まれんのはお前さんだが」
「変態コスプレマンだったか……」
「
僕はくだらないやり取りをしている間に聖剣を構え、銃刀法違反に不法侵入と犯罪行為を重ねていく男から距離をとった。
辻斬りみたいな格好だけど、コスプレじゃないなら江戸時代からタイムスリップでもして来ちゃったのかな? もう今さらそんなことじゃ驚かないぞ。
……ちなみに、僕の方はパジャマ姿だ。我ながらあまりにも緊張感がないと思うが、こんな時間に襲撃してきた向こうが悪い。
「お前……何が目的だ!」
気を取り直してそう問いかけると、男は腕を組みながらニヤリと笑う。
「何だって良いだろ? 回収されたくなきゃその剣で対抗しなァ」
「か、回収……?」
まさか、狙いはクラウ・ソラスくんなのか? じゃあ変態コスプレマンじゃなくて変態武器マニア?! やっぱり泥棒じゃん!
「お前みたいな不審者に渡すものは何もない!」
「だったら俺と斬り合おうぜ? 殺した後で持ってってやるからよォ!」
物騒な奴だな。ヤバさで言ったらクラウ・ソラスくんと良い勝負だ。やはりあいつの言っていたワルモノはこの男か。
僕が警戒をより一層強めた次の瞬間、男は懐から真っ黒な水晶を取り出す。
「おい、今度は何をするつもりだ――」
「お互い、気兼ねなく殺し合うなら広い場所の方がいいだろ?」
次の瞬間、辺りが真っ暗な闇に包まれた。
*
少しして、再び明るさが戻る。しかしそこは僕の部屋ではなく、近くに川の流れる夜の荒野になっていた。
異様に眩しい月明かりが僕と目の前の男を照らしている。
どうやら、また異世界に飛ばされてしまったらしい。いくら何でも短い間に連続しすぎだろ。流石にやれやれだぞ。
「これ、お前を倒せば帰れるのか?」
「こいつを俺から奪って使えばなァ」
黒い水晶を見せつけながら言った後、それを懐に――というか、腹の中に手を突っ込んで隠す菅笠の男。
「うえー……」
「何だよ? お家に帰りたきゃ俺を殺して腹を
なるほど、大体分かってきたぞ。コイツは江戸時代の辻斬りが悪霊化した存在だ。
おそらく、僕は異世界で一度死んだことによって霊的な力に目覚めてしまったのだろう。
やたらと変なのに襲われるのはそのせいだ。勇者の力が残ってて良かった。
「やれやれ、魔物退治の次は悪霊退散ってわけか……」
「あ?」
相手が幽霊なら、普通の人間を相手にするよりは抵抗感なく戦えるな。
……お腹を切り開くのはあまり気が進まないけど。幽霊なんだから倒されたら消滅しろよ。
「……お前、名を名乗れ」
僕は目の前の辻斬りお化けに問いかける。相手の時代に合わせてやった方が、なんか満足して成仏してくれそうな気がしたからだ。
「あぁ……?
そう答えるのと同時に男――ムラサマは
「むらさま……?」
「俺の妖刀が言ってんだ。誰でもいいから強えヤツの血が吸いてえってなァ!」
そして、全てが真っ黒な目を大きく見開きながら言った。
「それ僕の妖刀も言ってた」
やっぱり妖刀ってそんな感じだよね。うん。分かるよ。
「
その瞬間、聖剣が一際強く光り輝く。ムラサマと一緒になって自分が妖刀であることを否定しているらしかった。
――敵の言葉に同調するんじゃない!
「行くぜぇッ!」
刹那、ムラサマは一気に距離を詰め抜刀する。
かなりの早さの居合いだったが、クラウ・ソラスで真っ向から受け止める。
金属音が鳴り響き、一瞬だけ火花が散った。
「ほお、今のを受けるか。面白え!」
聖剣の加護のおかげである程度の危険予測が出来るからな。初撃をくらうことはまずない。
「……やれそうか?」
僕がクラウ・ソラスに問いかけると、輝きで返事をしてくる。
「なるほどな」
思ったより弱い……か。
確かに、聖剣の力が異世界で旅をしていた時よりも格段に上がっていることが伝わってくる。
こんな状況でも落ち着いていられるのは、僕が生命の危機を一切感じていないからか。
「死ねぇッ!」
「遅い」
僕は再び間合いに踏み込んできたムラサマの二撃目を完全に見切り、すれ違いざまに首を
「――――あ?」
背後で血の吹き出す音と、どさりという何かの倒れる音がする。
おそらく、ムラサマは自分が斬られたことにすら気づけなかっただろう。
「
念の為に魔法で追い討ちをかけておく。トドメは大事。魔王戦で学んだ教訓だ。
こうして、ほぼ一方的な戦いが終わった。
役目を終えたクラウ・ソラスは消失し、僕の内なる世界へと戻っていく。
「さてと……悪霊も成仏させたことだし、帰って寝るか」
僕は言いながら、黒焦げになって崩壊中のムラなんとかの残骸から黒水晶を拾い上げた。
使い方が分からないので、とりあえず天に掲げてみる。
「………………」
しかし何も起こらない。
「あ、あれ?」
これ、使い方を聞き出すまで生かしておくべきだったかもしれないな。
「く、黒水晶よー、我を元の場所へ帰すのだー!」
それっぽい詠唱をしてみるが、変化は一切みられない。
「……どうしよ」
帰れなくなっちゃった。
誰か助けて!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます