第3話 たぶん幽霊とか信じてる系の妹
「今……誰と話してたの……?」
お年頃の男の子の恥ずかしいところを見られてしまった僕が固まっていると、
「……自分」
「ふぅん? ……つまり?」
僕の答えに納得がいかなかったらしく、首をかしげてくる。
「えっと、僕と紬ってそんなに似てるかなってことを考えてたんだ」
とっさの言い訳で誤魔化す僕。
実際、双子だからか顔立ちは僕とそっくりだと周りからよく言われるのだが……どちらかと言えば可愛い系で幼さをアピールしている紬と、孤独な雰囲気を漂わせるクールガイである僕とではタイプが違うと思う。
同じところは黒髪で黒目なところくらいではないだろうか。仮に僕が女の子だったとしても、ツーサイドアップという髪型で高校に通う度胸はない。紬はやばいのだ。
「眠らぬ戦士がどうのこうのって言ってた気がするけど……」
「それは気のせいだよ。聞き間違いじゃないかな」
僕は即座に否定した。それでもまだ紬の視線が痛いので、どうにか話を誤魔化す必要がある。
「……そうだ! 紬の意見も聞きたい! 紬はどう思う?」
「なんなのいきなり……」
僕の強引な問いかけに対し、紬は少し考えてから澄ました顔でこう言った。
「どちらかと言えば童顔で弱そ――可愛い系の
「…………」
「いきなり黙らないで、ばか」
一つ分かったことは、血は争えないということだけである。
僕が一人で虚しさを覚えていると、次第に紬が不機嫌そうな顔つきになってきた。
「……もうっ! 私、先に学校行ってるから!」
「え……?」
……そういえば、今日は学校がある日だったな。
異世界から戻って来て以来、割と「学校なんて最低限行っとけば良いんじゃないかな」という気持ちになっていることは内緒だ。
ひょっとすると、僕の心はいまだに現実へ戻って来れていないのかもしれない。由々しき事態である。
「……とにかく。私はちゃんと起こしたから、後は好きに遅刻すれば」
「あ……うん。そうするよ」
「卒業できなくても知らないからっ!」
かくして、怒った紬に置いていかれた僕は言われた通り学校に遅刻したのだった。夜更かしはよくないね。
*
そんなこんなでいつものように学校の授業を受け、放課後になった。
僕は特に部活をやっていない帰宅部なので、速やかに帰ってゲーム……じゃなくて将来のための勉強をしようと席を立ったその時。
「うん……?」
教室の入り口に紬が立っているのが見えた。何やら僕に用があるらしく、ジト目でこちらを
紬と僕は同じ学校に通っているが、クラスが別々なのだ。
「おい……あの子、可愛くないか?」
「確か
そうこうしていると、後ろの席でふざけていた男子生徒どもの会話が耳に入ってきてしまう。
「馬鹿、聞こえるぞ」
「ばっちり聞こえてる」
気難しそうとはなんだ。失礼な。その通りだよ。
「僕も紬も気難しいお年頃なんだ」
「お、おう……」
「貴様に紬はやらん」
「お前、そんなキャラだったのか……」
「…………うん」
さてと。クラスメートと楽しく話すノルマは達成したな。
「い、痛い奴だな……」
何か後ろから聞こえた気がしたが、まあいい。あんまり待たせるのも悪いから、早く紬の用事を済ませてやろう。
僕はそそくさと荷物をまとめて妹の元へ駆けつける。
「こっちの教室に来るなんて珍しい。どうかしたの?」
「これ。今朝……渡し忘れてたから……」
そう言って紬が手渡してきたのは、白い袋に金色の線で星型――いわゆる
なんでも魔除けの効果があるらしく、僕が異世界に飛ばされて行方不明になって以降、事あるごとに持たせようとしてくるのである。
「あ、ありがとう紬。……流石に心配しすぎだと思うけど……」
「……勝手にいなくなったくせに」
「あはは……」
そう言われると何も言い返せない。おまけによく考えたら、昨日は巨大コオロギの悪霊に襲われたんだから御守りくらいは常備しておいた方がいいのかもしれない。
「笑うな。……あと、前のやつは効果が切れたから返して」
「うん……」
僕は前に貰った御守りをバッグから取り出して紬に渡す。
「…………っ!」
それを受け取った紬はなぜか少しだけ眉を
でも、いつの間に紬はここまで信心深くなってしまったのだろうか。そのうちエインみたいに「おお、神よ……!」なんて言い出して治癒魔法まで使い始めるかもしれない。
それはそれで面白そうだから別にいいけど。
「……じゃあ、私は忙しいからもう行く」
「ああ、うん。頑張ってねー」
ちなみに、紬は僕と違って部活で忙しいらしい。何をやってるのかは頑なに教えてくれないけど、僕が聞いたところで理解できるようなものじゃないそうだ。
何だよそれ、というのが正直な感想である。まあ、本人が話したくないのであれば僕も余計な詮索はしない。
ちょっとだけ反抗期な妹はそっとしておくに限る。だから僕も昨日遭遇した巨大コオロギの話はしないのだ。
だって行方不明になっている間に異世界へ行っていたことは話したけど、普通に信じてもらえなかったし。「頭、大丈夫? また病院……行く?」って言われた。真剣に、心配してる顔で。あまりにも酷い。
御守りの効果を信じてるんだったら、僕の話も信じて欲しいものである。
「……じゃあ、帰るか」
僕は心の中で文句を言いつつ御守りをバッグにしまい、学校を後にするのだった。
紬がくれたこの御守りさえあれば、きっと変なことには巻き込まれないよな! うん!
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