第17話 お終い

 三日後にはランキング更新が迫ったこの日は緑色のゲートをしたダンジョン攻略へと出向いている。


 だいぶ攻略にも慣れて来た。


 この慣れが気の緩みに繋がるため、大事なこの時期だからこそ気を引き締めようと思う。


 そう奮起する私に対して、私の膝に頭を乗せて寝転ぶクロちゃん。


 スヤスヤと可愛らしい寝息を立てながら寝ている。


 そして他の二人も寝ている。


 連日の攻略により体力の回復が間に合ってないのかもしれない。


 だから、「気が緩んでる!」って怒る事もできない。


 ランキングの最下位から脱出するには皆の力が必要不可欠だからだ。


 休めるうちに休んで貰いたい。


 「そろそろ到着するから皆起きて!」


 皆を喉が張り裂けそうな程に大きな声で起こして、意識を覚醒させる。


 迷宮型のダンジョンに入り、最速の攻略を目指して奥地へと進む。


 能力解放でボス戦をサクッと終わらせるためにも道中ではなるべく使いたくない。


 発動でも体力の消耗は多くなるので、クロちゃんの能力は使わせない作戦を基本としている。


 道中の火力不足は当然起こるが、カオリンのトラップアイテムを利用して補う。


 テンちゃんが武器を新調して魔法威力と打撃力を強化している。


 彼女のゼロ距離攻撃はクロちゃんの解放にも届きうる力を誇っている。


 「オークが三体広い場所にいるけど、どうする?」


 「分かれ道も無かったし進行して倒そう。まずは影から広間の地形を把握する。クロちゃんは隠れて攻めて来たら前に。まずは私とカオリンがチェックする。カオリンはトラップに集中して」


 「分かった」


 私は能力を発動して意志の共有を素早く行う。声で指示出しするよりも早く行動に移せるようになるだろう。


 壁からひょっこりと顔を出して地形を把握⋯⋯奥の道が三本に広がってる。


 手前の空間が広い空間となっており、固まってオークが集まっている。


 「⋯⋯重い」


 「え?」


 「なんで僕が下なんだよ」


 「ご、ごめん」


 「別に良いけど⋯⋯」


 「あと私は重くないよ」


 「いや十分⋯⋯」


 「重くないよ?」


 私がしっかりと言うと、カオリンは一度私の胸を睨んでから再び敵の方に集中する。


 他に敵兵はおらず、トラップも無い。


 ならば後は倒して先に進むだけだ。


 「カオリントラップの準備、全員で進行する」


 「「「了解」」」


 「クロちゃん、オークは能力使わずに勝てそう?」


 「さすがに難しいかな?」


 ふむ。


 オークの体格は中年男性くらいで厚い脂肪を持っている。


 能力を使わないクロちゃんでも薙刀を使えば倒せそうな気はする。


 いや、過信は良くないか。本人が言うのだからそうなのだろう。


 「だったら攻撃の時のみ能力を使って。一体はカオリンが拘束、最初の一体はこの場で不意打ちする」


 私はライフルを構えて狙いを定める。


 「撃ちます」


 引き金を引いて連射する。


 一体のオークに狙いを絞った事で蜂の巣にしたが倒れなかった。


 厚い脂肪が防御力を上げているのか、貫通する事ができなかった。


 胴体に比べて頭は小さいので狙い難かったので避けたが、狙うべきだったか。


 「攻めて来るよ。追い込まれたら面倒。左右に散開して撹乱、カオリンは私と」


 「分かった」


 私達は右側の方に向かって走る。


 先に攻撃した私を狙って来る三体のオーク。


 「こっちにも敵はいるぞ!」


 その辺に転がっている小石を一つ取ってクロちゃんが投げた。


 それでヘイトが向き一体のオークが向かって行く。


 「傷を負ってないオークにトラップ!」


 「うん! 遠隔設置『蔓鞭』」


 その間に最初に攻撃したオークにトドメを刺す。


 拘束したオークを倒そうと狙いを変えると、ソイツは雄叫びをあげる。


 「うぉぉぉぉぉぉ!」


 「耳がっ!」


 「イカれるっ!」


 耳を塞いで歯を噛み締める。


 轟音が止まると、ドドドっと足音が奥の道から聞こえて来る。


 『⋯⋯敵の追加! 数の把握はまだできない! そんくらい多い!』


 脳内に流れたカオリンの言葉に私達は冷や汗を流す。


 全ての道から現れる数々のオーク。


 来た道からもオークが現れた所を見るに【招集】のような能力では無く【召喚】に近いだろう。


 これは⋯⋯ピンチか。


 「まずは目の前のオークを倒す」


 素早く照準を脳天に合わせて連射し倒す。


 一旦集まる。


 「数が多いっ!」


 弾切れ。リロードするとオークが肉薄して来た。


 「能力解放【鬼】」


 オークの身体が真っ二つに分かれる。


 「クロちゃん!」


 「リエちゃん指示を!」


 「うんっ。カオリントラップで拘束、テンちゃんは魔法を二回まで使用、タイミングはクロちゃんが四メートル離れた時に反対側のオーク狙って」


 「「「了解」」」


 クロちゃんが進行してオークを薙ぎ倒して行く。


 反対側のオーク達の殲滅ができないので私達がそれを対処する。


 カオリンのトラップで一体のオークを拘束、及び障害物としてオークの動きを制御。


 拘束されたオークは一度放置して他のオークを狙う。


 テンちゃんの魔法が飛んで行くのが見える。


 「咆哮しそうなオークがいたらソイツを中心に叩くよ!」


 しかし数に対して火力が足りずオークの攻撃がテンちゃんに迫る。


 「天音っ! 遠隔設置!」


 カオリンがテンちゃんを助けるべくアイテムを使う。


 それにより狙うべきタイミングだった場所からオークが迫って来る。


 このままでは押し切られる⋯⋯地面からじゃダメだ。


 もっと広範囲に妨害できるようにしなくてはならない。


 「カオリン天井にトラップを!」


 「高くて届かない!」


 天井が高いためにクナイが届かないらしい。届いても刺さらない。


 クロちゃんが来るまで耐えられない。ダメージ覚悟?


 そんなの危険すぎる。仲間が傷つくのは見てられない。


 ⋯⋯クナイが天井に届きさえすれば、発動できる。


 『カオリン上にクナイ飛ばして』


 『なんっ⋯⋯』


 『早くっ!』


 「クソっ!」


 カオリンが天井にシュッとクナイを投擲する。私は懐のホルダーからハンドガンを取り出して狙う。


 狙いはクナイ。真上に向かうベクトルに合わせて加速させる。


 「ここだっ」


 弾でクナイを押し込み、見事にクナイは天井に刺さった。


 発動して天井から蔓が伸びてオークを拘束しブラブラと揺れ動く。


 僅かの時間だがオーク達の行動を妨害する。


 「テンちゃん蔓に魔法!」


 私は前に駆け出してぶら下がるオークを蹴り飛ばす。


 カオリンの魔法で燃えちぎれる蔓。蹴った勢いもあってオークを数体巻き込む。そして大きな火の塊となる。


 「特攻っ!」


 オークを倒してできた空間に飛び込んで仕切り直し。体勢を直すオークは連射して倒す。


 「何今の! あんなのできるの!」


 「分からない。私もびっくりして手が震えてるっ!」


 ぶっつけ本番だよあんなの。


 「もう大丈夫。私が来たよっ!」


 天井を破壊する力で蹴飛ばし加速したクロちゃんがオークを瞬殺する。


 返り血を浴びているクロちゃんが鬼の形相で他のオークを倒した。


 「はぁ。はぁ」


 時間にして十二分の激闘。長い戦闘。クロちゃんの解放時間の残りは長く無い。


 ここから攻略を続けてボス戦に挑む。


 幸いこれでオークはかなり倒せた。もし【招集】系統の能力ならばダンジョン内のオークの数は減っている事だろう。


 希望に過ぎないが望むのは自由。


 魔石の数は十分だろうし、敵を順当に倒しつつボス部屋に行く作戦からボス部屋特攻に作戦を切り替える。


 最小限の戦闘に抑えたが、それでもエンカウント率は高かった。


 ボス部屋の前で休憩しながらクロちゃんの体力を確認した。


 「あと二分くらいかな?」


 「カオリン敵の数は?」


 「オークは五十超えてる。中心にでかい気配があるからそれがボス」


 ボスを四方八方から守る配置か。


 「テンちゃん、魔法はあと一回だよね?」


 「そうだね。残り一回だ。面目ない」


 「いや、私がもっと適切に使うタイミングを測っていたらもっと残っていたから。⋯⋯それじゃ、短期決戦で終わらせよう」


 クロちゃんの解放を出陣と共に使用し、テンちゃんを運んで貰う。


 おんぶで運んで肉薄し、二人の攻撃でボスを倒す。


 それでダンジョン攻略は終わりだ。


 カオリンのトラップは残り三つ、私のライフルの弾薬も僅か。⋯⋯これの使い道は。


 クロちゃんの特攻で全てが決まる。


 「⋯⋯この戦いが終わればきっとランキングの最下位から抜けられる。バカにされなくなる⋯⋯だから絶対に攻略しよう」


 誰もが返事をせずに、私の独りよがりかと身を硬直させる。


 ⋯⋯私、失敗したかな?


 そう思って泣きそうになったが、三人共カッコイイ笑みを浮かべていた。


 「もっちろんだよ」


 「アタシだって頑張るよ」


 「うん。そうだね」


 「皆⋯⋯良し、それじゃ、行こう!」


 ドアを開けて中に入る。


 同時に天井に向かって銃口を掲げ、連射した。


 さぁ、開戦だ。


 ◆


 開戦の合図。リエちゃんの射撃音がボス部屋に響き渡る。


 全てのオークがリエちゃんに意識を向けた瞬間に私はテンちゃんをおんぶして走り出す。


 リエちゃんを囮にした作戦。超短期決戦。


 「能力解放【鬼】」


 オークを倒さずに走り出す。


 怖い顔をした豚を潜り抜けてレッドオークに肉薄する。


 この際私の体力は考えなくて良い。テンちゃんの火力を顔面に打ち込めば終わるはずだから。


 「テンちゃんタイミングを合わせるよ」


 「おっけー!」


 落ちこぼれだけと言われたチーム。それが今、上に上がる。


 その瞬間をここに刻んでやる。学園に、世界にだ。


 リエちゃんをバカにした奴ら、仲間をバカにした奴ら全員見返してやる。


 私の幼馴染で親友。小さい頃から辛い時に支えてくれたリエちゃん。


 彼女と一緒に駆け上がってやる。


 その近くには当然、テンちゃんやカオリンもいる。


 私達は、53班、ゴミと言われるチーム。


 だけどもう言わせない。それを目指すと決めたのだから。


 そのための⋯⋯。


 「⋯⋯礎と成れ、オーク!」


 「合わせる、合わせる、合わせる、合わせる。能力発動【火系統魔法】『ファイヤーボール』」


 「ふぉえっ!」


 「えっ?!」


 私の拳に火が宿る。不思議と熱くない。だけど、熱い想いが流れて来る。


 世界によって与えられた力により夢を砕かれたテンちゃんが能力に向き合い、意味を見出した。


 その力を借りて、私は全力でボスのオークを殴る。


 遅れて振るわれる武器すらも届く前に殴れる。


 「クロちゃん、行っけえええええ!」


 顔面に埋まる拳。その力によってオークは吹き飛ば無い。


 ただ、顔面が弾け飛んだ。爆散したのだ。


 その破片は灰となって舞い散る。


 「これは初めの一歩だ。私達の登るための一歩だ。もう誰にも私達を見下す権利も資格も与えないぞ!」


 三日後、私はリエちゃん、テンちゃん、カオリンと共にランキングの掲示板に足を運んでいた。


 昔ならばカオリンは部屋に籠っていた。テンちゃんはグランドで走っていた。


 そして周囲の人間は私達を見てクスクスと笑っていた。


 だけど誰もがそんな事はしない。


 なぜかって?


 簡単だ。


 一ヶ月。たったの一ヶ月で離されたポイントを詰めて抜かしていたのだから。


 「リエちゃん」


 「うん。これは⋯⋯やったね」


 「やったね八重」


 「アタシも少しは役立てたかな?」


 「68位。底辺から脱却だ!」


 リエちゃんが喜びで打ち震える。嬉しさを心の中で消化できなかったのか、目の奥から涙を流す。


 口が裂けそうな程に嬉しそうな微笑みを浮かべて。


 誰が予想しただろうか。


 モンスターを倒せないお荷物、魔法を四回しか使えず十メートル以内しか正確に当てられない魔法士がいて、トラップ解除の時に手が震えて失敗を連発するレンジャーがいる。


 そんなチームがいきなり最下位から浮上したのだ。


 「クソっ!」


 誰かの恨みを吐き出す声が聞こえた。同時に壁を殴る音も。


 その方向を見ると、大きな怪我を負った様子の70位のチームの人達がいた。


 私達を煽った中心人物だった。ポイントが追いつかれそうで焦り、身の丈に合わないダンジョンへと挑戦し怪我を負って撤退して来たのだろう。


 少しだけ、ざまぁみろ、と思ったのは私の性格が悪いからだろう。


 「クロちゃん」


 「ん?」


 「これからもよろしくね」


 「⋯⋯」


 私が黙りを決め込むと、悲しそうな顔をするリエちゃん。


 可愛いな。


 「当然だよ私は君の親友だからねっ! 君の隣は例えすーちゃんでも渡さない。テンちゃん、カオリンもずっと一緒だよ!」


 「だ、ダメでしょうか?」


 「何ビクビクしてんのよ」


 「そうだね」


 「アタシは頑張るよ。もっと自分が好きになれるように、能力を好きになれるように」


 「僕も同じだ。僕が前に進めるのは君達のおかげだからね。改めてよろしく」


 「皆⋯⋯ありがとう、ございます。⋯⋯クロちゃんも私の隣にずっと居てね」


 「ふふっ。さて、配信でのボーナスもあるし、ポイントも入るし⋯⋯今日は宴じゃあああああああ!」


 私の叫びは学園中に響き渡った事だろう。






◆あとがき◆

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攻略学園の落ちこぼれ〜ダンジョンが蔓延る世界で自由に楽しく生きます〜 ネリムZ @NerimuZ

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