第16話 ハイペース攻略、53班の本気
私が戦うと決めてから攻略のペースはグンっと上がった。
その覚悟を決めてから二週間が経過し、一日に二回のダンジョン攻略などもしている。
私に頼り過ぎているとリエちゃんは落ち込んでいるが、そもそもの火力役が私とテンちゃんだけなので仕方ないのだ。
落ち込む必要は無いけど、リエちゃんは納得しなかった。
そして今日もまたダンジョン攻略しにやって来た。
ペースを上げるために予約するダンジョンの位置に気をつけたり、場合によっては競売に参加する。
今回のダンジョンは白色のゲートで迷宮型、メインモンスターはゴブリンだ。
前は撤退の苦渋を飲まされたが、今回は違う。
「クロちゃん能力解放の時間は?」
「ん〜あと六分かな?」
「分かった。道中は必要ないからボスをサクッと倒そう。テンちゃんの魔法はあと一回だよね?」
「そうだね」
私が前にぐんぐん進むと後ろがついて来れずに襲われるケースが出て来た。その時に対処しているのがテンちゃんだ。
もちろんカオリンやリンちゃんも戦っている。
魔法で複数体を一度に倒すか怯ませる事ができるので便利なのだ。
「今回は僕の新武器も試したいかな」
「何か新しいの買ったの?」
「それはお楽しみって奴だ。八重には既に共有している」
「サプライズは命取りだからね。必要な時に頼みま⋯⋯頼むね」
ダンジョンに到着して、私達は準備を素早く終わらせた。
今や能力解放を使う私の知名度も向上して配信に人がやって来るようになった。
ボーナスが増えてハッピーだ。
“本日も二回目”
“もうすぐランキング更新だな。頑張れ”
“底辺卒業か?”
“見てるぞ”
“能力解放はあんまり使わないよね”
“必要ないくらいに強いのと敵が弱い”
“ファイト”
“立花さんの足に踏まれたい”
私の能力は体力を大きく消耗する。発動状態でも削られて行くので解放できる時間は減って行く。
なるべく私の能力は使わずに進行する。
能力を使わずとも動けば体力は減るんだけどね。
私も能力を使う時に消費するエネルギーが魔力だったら良いのに。あるいはリエちゃんみたいに消費エネルギーゼロ。
「右の通路にゴブリン三体、左に二体だ」
「分かった。クロちゃんは右を殲滅、左は私とカオリンで。テンちゃんは魔法温存と他の道の警戒をお願い」
「トラップは無いからさっさと終わらせて来いよクロちゃん」
「りょーかい」
私は曲がり角から出てスタートを切る。
ゴブリンに気づかれたが、先に一体倒すべく薙刀を投擲する。
頭を貫いた。
「ごがっ!」「ぐがっ!」
残りのゴブリンもやって来るが、片方は回し蹴りで倒し、もう片方かパンチで倒した。
蹴り方や殴り方次第では簡単に殺せるのだ。能力の影響で頑丈になった身体も影響している。
ただ、後味が凄く悪い。拳に残る感覚に吐き気を覚える程には。
薙刀と魔石を回収して戻る。
「一体撃破。カオリン!」
「了解。遠隔設置、トラップ『蔓鞭』」
カオリンが取り出したのはクナイであり、それをゴブリンの足元に投擲した。
ピカっと発光すると地中から植物の蔓のような物が伸びて来る。
それはゴブリンを絡み拘束した。
「拘束アイテム『蔓鞭』僕の新武器だよ」
「ほへー私も使えるかな?」
「これ単体かつ索敵範囲が限られているからかなり難しいよ。クロちゃんの場合そのまま本体にクナイ投げた方が強いかも」
「私もカッコ良く相手を拘束したいなぁ」
「ふっ。そのまま骨折りそうだよね」
「カオリン酷い!」
私達が会話していると、拘束されたゴブリンはテンちゃんに撲殺されていた。
弾の節約にはなるが、魔法系能力の威力や制御をサポートする杖で撲殺する光景はなんとも⋯⋯。
モザイク無しでは上映できない状態になったゴブリンの頭。魔石に変わるので問題ないが。
「テンちゃんは良く杖でゴブリン倒せるね」
「まぁモンスターだし。そこは割り切ってるよ。魔法も一日に四回しか使えないし」
「逞しい」
テンちゃんは最近陸上の練習以外にも魔法の練習もしている。
いずれ一日に使える魔法の数も増えるだろう。そうなればより強力な魔法も使えるようになると思う。
そんな未来を妄想しながら奥へと進む。
宝箱も見つけつつボス部屋へ到着した。
道中でテンちゃんの魔法は使い切ってしまった。
カオリンの遠隔設置アイテムも空っぽだ。
「能力解放時間は⋯⋯あと二分かな? 白迷宮なら十分だと思うよ」
「うん。でも過信は良くないからギリギリまで温存。確実に倒せる距離で使う事。カオリン、敵の気配は?」
カオリンがボス部屋の中を把握する。
「えっとね」
地面にダガーを使って部屋の中にいるモンスターの配置を書いて行く。
ボスが一番奥にいて、それを守るようにゴブリンが前に大量にいる。
ゴブリンを倒してボスを叩かないといけない。
「リエちゃんどう戦う?」
「ちょっと考えるね。皆も意見ちょうだい」
「「「⋯⋯専門外」」」
誰も作戦を考えずにリエちゃんが一人で作戦を考えた。
ボス部屋の扉を私が開けて、次の瞬間にリエちゃんがアサルトライフルを連射する。
正面のゴブリンを倒しながら、カオリンが迫って来たゴブリンをダガーで倒す。
「まさかアタシがこんな役目を負うなんて」
「よろしくねテンちゃん!」
私は今、テンちゃんにおんぶされている。
少し減ったゴブリンの中に向かって全力で走る。
ボスはエリートゴブリンって言うゴブリンの上位種だ。
身長は高校生並だ。
「うわわわわ! 頑張れアタシ!」
「ファイトテンちゃん!」
「ねぇこれ黒霧一人の方が安全なのでは!」
迫り来るゴブリンを適当に払いつつテンちゃんが走って行く。
騎士になった気分だ。
「良いよ!」
距離にして約四メートル。
ゴブリンの中にいるテンちゃんのためにも速攻で倒す。
そのために体力を温存したんだ。
テンちゃんの肩に足を乗せて、ボスを睨む。
「能力解放【鬼】」
テンちゃんの肩を壊さないように手加減して周囲のゴブリンを風圧で薙ぎ払う。
降りてから地面を強く蹴る。
肉薄した瞬間に薙刀を横薙ぎに一閃して胴体を真っ二つに切り離す。
撃破した事によりダンジョンの崩壊が始まる。
「テンちゃんナイスファイト」
「ええ。黒霧もナイス。全く、馬になった気分よ」
魔石を回収して帰還する。今回は珍しくエリートゴブリンの武器も手に入った。
帰ったらすぐに寝たかったが、リエちゃんに武器屋に誘われたので向かう。
薙刀も新調したかったのでちょうど良いタイミングだ。
道中、食堂で私に絡んで来た人達とすれ違う。
「ねぇあんたら」
「なんですか?」
「最近少し順調だからって調子に乗らない様にね。どうせまた最下位なんだからさ」
「そうそう。無理して死なないようにね」
この人達⋯⋯何か焦ってない?
喋り方はあまり変わってないが前回と比べて言葉を出すスピードが上がっている。
それは不安から来る焦り⋯⋯ランキングこの人達下の方なんだろうな。
私達に抜かされそうなのだろう。
少し順調、ね。一日に二個のダンジョンを攻略するハイペースはかなり順調だと思うね。
「ご忠告感謝します。それでは。行こ、クロちゃん」
冷静に対処したリエちゃん。静かな怒りを感じた。
私を引っ張る手に微かに力を込めていたから。
すれ違った彼女達が見えなくなると、リエちゃんはべーっと舌を出して威嚇した。
「あの人達のチームランキング69位なんだよ。最近のハイペース攻略に焦ってるんだろうね」
「ふふ」
「え、何かおかしな事言った?」
「ううん。そうじゃない」
リエちゃんが相手の焦りを見抜ける程に冷静だった事が嬉しいのだ。
いつの間にか観察眼も上がっていたのだろう。
⋯⋯ただ、相手のチームを把握している理由は気になったが。
リエちゃんは私が思っている以上に怨念深いのかもしれない。
「ああ言う人は自分よりも下を作る事で安心するんだ。優越感に浸ってないと怖くて堪らないんだ。気にしちゃダメだよ」
「分かってるよクロちゃん。私達が上になっても、ああは成らないようにしないとね」
「そうだね。そんな事したらすーちゃんにブチ切れられちゃう」
「確かにっ!」
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
ここからや! って感じですが次回で終わる予定です
並行して次回作も作成していたので、すぐに新作が投稿できる予定です
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