窓から射す朝日

・・・すっかり明るくなってしまった空は朝日の暖かな陽射しを纏い、無色な窓ガラスを突き抜けて部屋の凹凸に光や影を作る光景に「朝がきた」と寝起きの掠れた声で呟く。

重い体を起こし、窓の外を見つめた時確かに煌めく朝日がこちらを向いていた。ふわふわした白髪を手ぐしでとかして大きな欠伸をひとつする。リビングに行けば早朝から職場に向かった母親の置き手紙とパンを見つけた。そっと手を伸ばして口に放る。強いて言うなら小麦の甘みがあるような、なんの変哲もないパンを咀嚼するこの時間も朝日は僕を見詰めている。

スクールバッグには教材やイヤホン、暑くなってきたのでタオルや水筒、日焼け止めを一式詰めて肩にかけるとずっしり重くてよろける。誰に言うわけでもなく、静まり返った部屋に

「行ってきます」

そう告げたものの、この声は近くの空気を振動させただけで響きもせずこっそり消えた。


電車に揺られて30分ほど、バスに揺られて10分ほどに位置する西溟学園は比較的大きくて新しい学校だ。そんな景気のいい学園に通うのも今年が最後で、もうこの朝日を肌で、目で、心で感じられるのは残り僅かな限られた回数となった。朝から元気な話し声や一限の体育の愚痴をする女子などを横切って教室に向かって自分の席につこうとした時、

「おはよ」

そんな短い言葉が僕の鼓膜を揺らしたので目を向ける。今年ようやく同じクラスになれた葉坂來輝はざからいきの眠そうに目を擦る姿があった。

「うん、おはよう來輝。眠そうだね、あんまり寝れてないの?」

「んー、まぁね。急に暑くなってきて眠りが浅くなってきちゃってさ」

確かに、最近ずっと蒸し暑い。暑いから対策セットを持ってきたが夜中もむしむししてきてこめかみにじんわり汗が滲む。

「遥は寝れたの?」

「僕は寝れたかな、寝る前にクーラー付けてたし」

遥、というのは僕の名前で朝日遥あさひはるか

昔から夏は苦手だったために気さくな心掛けを続けているのでここ数年は夏バテや熱中症になってない。そんな季節物の会話を弾ませているところに、また僕の仲間が廊下から顔を出して手を振っていた。

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誰かの色々な物語〜朝日の背比べ〜 月団子 @tukidanngo0329

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