3.書きかけの小説
「小説はまだまだ完結しそうにないの?」
アルフは言った。
「そうね。全体の流れと結末までは頭に浮かんでるんだけど、そこに行き着くまでの経緯がなかなか出てこなくて。」
「そろそろ僕にもその小説の話を聞かせてよ。もう、聞きたくてウズウズしてるんだよ」
そう言いながら口元が緩み、思わず笑みがこぼれた。
「ありがとう。そう言ってもらえると本当に嬉しい。アルフは私の希望だから。」
「僕だって君だけが希望だよ。小説の読み聞かせしてくれたらさ、もしかしたら続きのストーリーが浮かんでくるかもしれないしね。」
アルフはいつもアドバイスをしながらも人の心を誘導するのが上手だった。その口ぶりから書いている小説が読みたくて仕方がないようだ。
「そうね。確かに貴方の言う通りかもしれない。アルフにこの小説の一番目の読者になってもらおうかしら?」
「ありがとう。楽しみにしてる。でも無理強いはしたくないから。君のタイミングでいいよ。だから心の準備が整ったら教えて。その時は君の小説に、真剣に耳を傾けるから。」
アルフは決して、エリサに無理強いをしなかった。それは出会った当時から変わらない。それがアルフの優しさだ。
言葉ひとつ取っても、相手になるべく不快感を与えないように汲み取っているかの様に伝えてくれる。言葉ひとつひとつに魂を宿しているのではないか?というくらいに。言葉ひとつを大切に大切に選りすぐっているのだ。
「分かったよ。気を遣ってくれて本当にありがとうね。たぶん一気には伝えられないから、一週間に一話ずつ伝えていくのはどうかな?その一週間のあいだにまた次の話を書こうと思う。ね?良いアイデアじゃない?」
「そのアイデアいいじゃない。僕もその方が続きが気になって、ワクワクドキドキが増えるかもしれないね。」
そう言ってニッコリと笑ってみせた。
「でもこのままじゃタイミングに迷っちゃうから、今度の新月の日にスタートするっていうのはどうかな?新月になるタイミングって、何か新しい物事を始めるのに良いタイミングって言うでしょ?」
そう言ったエリサの表情はいつもより輝いて見えた。エリサは幼い頃から宇宙とか惑星と、遥か彼方に確かに存在している夢のような世界に想いを馳せるのが好きでたまらなかった。
話している時の表情ですぐに分かってしまうほど、顔に出るのは昔から変わらなかった。
「それはナイスアイデア!だね。新月の日からスタートするなんて、何か神秘的だしなんとなく良いことが起こりそうな気がするしね。」
と言いながらアルフも同じ表情で喜びを表現していた。
「よし!じゃあ決まりね。新月の日までソワソワしてきちゃった。自分で提案したのに、何か変な感じ。」
こんなに調子の良い日は、エリサにとっては奇跡に近いと言っても良いくらい。むしろ体調が優れない日の方が多いからだ。
「僕もソワソワしてきちゃった。いつも感情がエリサに同調してるよね。僕たち前世はやっぱり双子だったかもしれないね?」
「そうなのかなぁ?でもそう思わずにはいられないよね。ふふっ」
「次の新月はいつだろう?」
と言いながら病室に掛けてあるカレンダーを確認してみた。カレンダーには月の満ち欠けがイラストで描いてある。誰が見ても今日はどんな月の形なのか?が分かるようになっている。
「今日がちょうど満月の日だから、15日後が新月の日になるね」
そう言って次の新月の日を指差した。
「新月の日が待ち遠しいなぁ…」とつぶやきながら新月の日を待ちわびるのであった。
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