第24話
「あのね……」
「待て」
話そうとした私を平家星くんが止める。
そして、頭をぽりぽりとかくように頭の後ろに手を当てる。
「――この前は、悪かった。少し気が立ってしまったんだ」
もしかして、気にしてくれてた――?
ほかほかと心が温まっていくのと裏腹に、冷たい頭には悪い想像が湧き上がる。
気が立ってしまっていた? 何で?
何か私が、悪いことをしてしまったのだろうか。
絶望におちいっている私から目を逸らし、平家星くんは視線を下へと向ける。
大きな瞳を哀しそうに伏せて、形の整った唇を開いた。
「――母の、命日でさ」
平家星くんの、お母さん。
宝石病で、亡くなった人。
申し訳なさと同時に恐怖が膨れ上がる。
私も、いつかこの日を迎えるのだろうか?
いや、迎えるんだ。
――怖い。
「そう、なんだ」
それしか、言えなかった。
何の言葉をかけるべきか、全く分からなかった。
「俺には、母の記憶が無い。宝石病で死んだってのも、この宝石を着けている俺を見て、周りの人が教えてくれただけだ」
そういって、平家星くんは入院着の下から宝石のついたネックレスを取りだした。
――青い宝石?
もしかして……。
「これは、母の形見だ」
「……!」
声が、出ない。
君はずっとこの
いや、違うか。
自分から縛られていた……?
「なんで俺はこんなに馬鹿なのかなぁ。大切な存在だったはずなのにさ。大事な大事なたった一人の母親なのに、記憶の欠片さえない。自分が悔しいよ。自分が、恨めしいよ」
平家星くんの、感情の吐露。
――君は、悪くないよ。
そういってあげたかった。
でも、この重みを感じられない私には何にも言えない。
「……ごめんなさい」
私には、これしか言えなかったよ。
「お前には、関係ないから」
「……、でも!」
下へ向けてた視線を君へと向ける。
君の黒曜石のような瞳を、じっと見つめた。
「私は、君に踏み込みすぎてしまった。『平家星』って……言われたく、ないんだよね? 君の母の――両親の事を、もう思い出したくないんだよね?」
平家星くんが、驚いたように私の瞳を見つめて、そして辛そうに俯いた。
「私は、この前言ったよね……『
その言葉を聞いた途端、君の身体がびくっとはねる。
あぁ、やっぱり。
「君は、この苗字が嫌いなの?」
ゆっくり、君の心へ向けて問う。
その時、君の心が隠れた。
「当たり前だろ。この苗字なんて……大っ嫌いだ!」
違うよね。
分かるよ。
勝手に、口が動いているだけだよね?
でも、そのままにはしておけないよ。
「……『もう、寿命が無い星』」
そう呟いた瞬間、君が息を飲んだ。
「この異名に、苦しめられてた? ……違う?」
これが、私の答えだ。
ベテルギウスについてこの時間で徹底的に調べた。
そこで、出てきたのが――『寿命が無い星』。
ベテルギウスは、赤い輝きを放っている。
赤い星は、寿命がない。
そう言われることもある。
でも、でもね。
「でも。ベテルギウスは! 光を放ってる! まだ負けてない。勝ってから、消えようとしてる。ねぇ、私はあの星が好きだよ? 眩い光を放って、夜空に輝くベテルギウスが。だから、そんなに、気負わないでよ」
最後のほう、少し、声が出なかったな。
――あれ、私、涙出てる?
なんでだろ。え?
別に、平家星くんのことじゃん。
私には関係ないのに、ね。
平家星くんを見る。
ぽかんとしたような顔で。
でも、解き放たれたような顔で。
君は、私を見つめていた。
「……泣いていいよ」
出来るだけ、柔らかい、あの時のお母さんみたいな声で君に言う。
そう言うと、君は堰を切ったように泣き出した。
君が泣き止むまで。
私は、君のそばに居た。
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