第23話

「失礼します。夜船よふね朝姫あさひです。

平家星へいけぼしくん。大事な話があります。」


この前と同じ境遇。

この前と異なる気持ち。

もう、おびえている場合じゃない。

だって、私には一年という寿命があるのだから。

――細かくいってしまえば、もう一年なんてないのだ。

私には時間がない。

いそがなきゃ。


「帰れって、いったよな?」


つぶやきにも満たない小さな声が聞こえる。

でも。

ここで食い下がるわけはない。


「大切な、大切な話があるの。」


もう一度強調して繰り返した。

あたりには静寂が漂う。

これから来るであろう返答が怖い。

また、拒否されるのかもしれない。

でも、やめられない。

君は私のあさひなのかもしれないのだから。

諦められないよ。


「……入れ。」


小さいつぶやき。

でも、それを聞き逃すわけにはいかない。

了承を得た、という事実ができたのだから。

胸が高鳴っているのがわかる。

普段気にしないようにしていた手の平の黄色の輝きが太陽の光に当たって煌めいている。

さぁ、行こう。


「お邪魔します。」


中にいたのは平家星へいけぼしくん独り。

――ここ、一人部屋なんだ。

というか、平家星へいけぼしくんってなんで入院してるんだろう?

怪我とかはないし、私と普通に話せているなら心的な病気でもないはず。

それに、もう死ぬとわかっている私でさえ集団の部屋なのに、なんで一人部屋?

しかも、ここの病院は上にいけばいくほど重症の患者さんが多くなっている。

君は、いったい――。


「あと、どのくらいだ?」


君の声にはっと顔を上げる。

君の視線は、私の目の横――宝石の所にあった。

あぁ、寿命のこと、かな?


「1年切ったかな。あと10ヶ月ぐらい?」


そういうと、君はなんとも言えない、諦めとか、悲しみとか、憧憬しょうけいとか。

色んな気持ちが籠っていそうな瞳で私を見つめた。

その瞳は黒曜石のように輝いていた。

私より、もっと、もっと。


「あのね……。」


私は、謝罪を君に伝え始めた。

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