第22話


「ねぇ、朝姫あさひちゃん。」


泣き止んだ朝日奈あさひなさんがこっちを向く。


「どうしたんですか?」

「……今から言うことを、信じてくれる?」


朝日奈あさひなさんは躊躇ったような、申し訳ないような顔で私を見つめる。

――どうしたんだろう?

でも、朝日奈あさひなさんは嘘をつかない。

私は、私は――。


「信じます。」


朝日奈あさひなさんは、ほっとしたようないつもの可愛らしい笑みを零した。

その後に、覚悟を決めたような勇ましい表情を浮かべ、口を開いた。


「私と……そらは姉弟なの。」


――え…………?

どういうこと?

なんで……?


「え、え? なんで、ですか?

だって2人とも苗字違うし、今まで仲良さそうな素振りだってみせなかったじゃないですか。」

「――そらは、児童養護施設に預けられてたんだ。」


自分でも、目が見開いているのがわかる。

平家星へいけぼしくんが、児童養護施設に……?

そういえば、2人の親が宝石病で亡くなったって……。


「そこにいたそらを、私たちが引き取ったの。でも、苗字は変えたくないっていうそらの意向で、そらは、『平家星へいけぼし そら』なの。」


声が出ない。

平家星へいけぼしくん、そんなに辛い思いしてたんだ。

――でも、なんで苗字を変えなかったんだろう?

彼は、その苗字を厭っていた。

それなら、変えればよかったのに。


「引き取ったのは、そらが3歳の時だった。」


嘘。

そんなに小さい時に親を失ったの?

まだ、「愛情」を受け止めきっていない時に。

まだ、「世界」が何か、分からない時に。

――もしかして。

平家星へいけぼし」という苗字しか両親が遺してくれなかったのだろうか。

だから、それがどんなに嫌でも宝物を大事にしているのではないだろうか。

平家星へいけぼし」が煌めくまで。

ふいに、君に会いたくなった。

君に会って、謝りたい。

もう、引かないよ。

私、このままじゃ下がれない。


「あと……。」

「ちょっと、平家星へいけぼしくんの所、行ってきます。」


朝日奈あさひなさんが何かを言いかけた。

でも、私は止まれない。

私は、病室のドアを開けて平家星へいけぼしくんの部屋へと向かった。


――この前は、ここで駄目になった。

だから、次こそは。


「失礼します。夜船よふね朝姫あさひです。

平家星へいけぼしくん。大事な話があります。」


謝罪と、感謝を。君へ。

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