第25話

泣き止んだ平家星くんは、ちょっと気まずそうだった。

――別に気にしなくていいのにね。

まぁ、私も平家星くんの立場だったら同じことをしていただろう。


「じゃあ……平家星くん、私行くね」


そう言って、病室から出ようとした。

その時だった。


「…………そら

「へ?」


後ろを振り向くと、他でもない平家星くんが俯いていた。

――今の、平家星くんが言ったんだよね?

内心不安に思っていると、平家星くんが口を開く。


「『そら』でいいよ。そっちの方が――色々といいだろ?」

「……そっか」


本当に、君はその苗字が大切なんだね。

無理してそう呼ぶこともないか。

でも、それなら――!


「それなら、私も『朝姫あさひ』でいいよ」


これぐらい、交換条件として妥当だよね?

してやったり、というように私は笑みを浮かべる。

――と、君は吹き出した。


「――え!? なんか私やった?」

「俺が勝手に吹き出しただけ、ごめんって」


それから少したって、君は自分の顔を無理やり元に戻した。


朝姫あさひ


ドキッ。

胸が高鳴る。

……え、なんでだろ?

別に幼い頃からの付き合いでもないじゃん。

なんで……こんな気持ちになるんだろう。

初めて、だよ。

その次に続く言葉、なんだろう。


「……ちょっと待って。これ呼ぶの超恥ずいんだけど!」

「……え!?」


改めて君の顔を見ると――真っ赤だ。

耳まで真っ赤で、なんかちょっと可愛い。


「無理しなくていいんだよ?」


笑ってそう言う私に、君は勢いよく首を振る。


「いや、呼ぶから。呼ぶから!」


思ってたより――可愛いね?

なんだか私まで笑顔になっちゃうよ。

ね――


そら?」


私がそう声をかけると、平家星くん――いや、違う。

がまだ少しだけ赤みの残った顔で私の方を向いた。

しっかりと視線を合わせてから、憧れのコトバを――君に。



――――言えた。

ずっと、ずっと言えなかった、このコトバ。

やっと、やっと。

――宝石病で、寿命があるってわかった時から、「また」があるかどうかわかんなくて。

怖くて、ずっとそのコトバが言えなかった。

「寿命」?

宝石病は、まだ理由だなんて全然分かっていない病気。

本当にあっているかどうかだなんて、わからないじゃない。

だから、言えなかった。

でも……今、言えた。

未来が輝いてる。

朝が――私にも来るのかな?

希望で世界が輝いて見える。

病院の無機質な白い部屋が窓から入る光に照らされる。

目の前にいる空が、同じ人のはずなのに、光って見えた。

空の口が、ゆっくり動く。


「あぁ。

「……うん!」


私は、飛びっきりの――宝石のような、笑顔を浮かべた。

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