第9話

ねえ、平家星へいけぼしっ、平家星へいけぼしって…


「ベテルギウス、のこと?」


私は、聞く。

その瞬間、強ばる。

顔が。

動きが。

空気が。

どうしちゃったの?

ねえ、誰か、教えて。

私、何したの――?


「いや、なんでもない。

今日はちょっと、帰るわ。ごめん。」


君、改め平家星へいけぼしくんはフラフラとした足つきで

屋上を去る。

私の心と裏腹に今日も太陽は輝く。


平家星へいけぼし

それはベテルギウス。

輝きの象徴。

オリオン座の一等星。

なんで、彼は怒ったの…?

夜船よふね」という苗字が私はあまり好きでは無い。

ついでに言うと名前の「朝姫あさひ」も。

「夜」はくらいイメージがする。

私は、実を言うと死後の世界が怖い。

暗闇が嫌い。

1人は嫌。

怖い。

だから私はこの苗字をあまり好んでいない。

かといって、「朝」も好きではない。

「朝」は希望。

全ての人類にとっての光。

――そんなの、私には無いから。

私に無いものを全部もっている君が、眩しい。


ベッドに転がる。

入院したての頃はこのふかふかなベッドに感激してて、この病室が大好きだった。

ここにいることを嫌だなんて全く思わなかった。

――今と違って。

今は私を閉じ込めるこの部屋が嫌いだ。

こんな運命を与えた世界が嫌いだ。

でも、私はまだ生きる。

その意味を、見つけるために。

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