第10話

そらside】

平家星へいけぼしって…ベテルギウスのこと?」


君は――いや、夜船よふね朝姫あさひはそれを悪いと全く思わないような澄んだ宝石のような瞳でその言葉を放つ。

え………?

なんで、知ってるんだ。

なぁ。

今まで、誰にも知られなかったのに。

なぜ、君が。

顔が強ばる。

何にもできない。

動かなきゃ。

言わなきゃ。

心配したような、怯えたような顔をする君に

このことを説明しなきゃ。

心配しなくていいんだよって安心させなきゃ。

――でも、言えなかった。

口が震えた。

声を出すことを拒否した。

このことを、説明できる自信がなかった。

俺が言うことが出来た言葉、それは


「いや、なんでもない。

今日はちょっと帰るわ。ごめん。」


それだけだった。

縋るような視線を向ける君に背を向け、

俺は屋上のドアを開けた。



夜船よふね朝姫あさひ。」


ぼそっと呟く。

これは他でもないあの彼女の名前。

宝石病の少女。

この名前が、俺は好きだ。

――いや!彼女が好きとかそういうのではなくて!

夜船よふね」 この苗字は夜をかき分け、

必死に「朝姫あさひ」を、希望を探しに行く。

こんな意味があるんじゃないかと思った。

羨ましい。

「死のう」だなんて考える事のない彼女の日常が。

――こんな「平家星ベテルギウス」だなんて名を持つ俺とは、元々違うんだ。

君に、このことは絶対、言わない。

君の瞳の様な美しい星が輝く夜に、誓った。

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