地獄は地獄で、それなりに。 ※再

青いひつじ

第1話

 

僕もいつか、デニムジャケットの似合う男になれるだろうか。見上げると、桜の花びらが一枚舞ってきて、僕の額にぴたっとくっついた。なんとも素晴らしい旅立ちの日である。

僕は今日、長年暮らしたこの天国という地を去る。父の転勤により、4月から地獄で生活することになったのだ。


「天ちゃん元気でね」

「手紙書いてね」

「ありがとう。みんなも元気で」

ひとりひとり、熱い抱擁を交わす。

「天ちゃん‥‥ズズッ」


この子は幼馴染のあまちゃんである。実は1ヶ月前、僕は満をじしてあまちゃんに告白をした。可能性は半々くらいかと思っていたが、見事玉砕してしまった。理由は僕のことは好きだが、それは友達としての感情で、あまちゃんはデニムジャケットが似合うワイルドな男性が好きらしい。ならば、僕がそんなかっこいい男になり、凱旋した際にあまちゃんのハートを撃ち抜けばいいだけの話。僕は非常に前向きな男である。それに、こういった挫折を大きくなってすると、立ち直るのに時間を要すると父が言っていた。


「天〜、そろそろバスが来るわよ」

「ではみんな、行ってくる。これは悲しい別れではない。必ずまた会おう」


友達に手を振り、459と書かれた地獄行きのバスに乗る。

見慣れた景色が流れていく。ゴミひとつ落ちていない、整備されたきれいな道。母とよく行ったスーパー、みんなと遊んだ公園、大きな桜の木。だんだんとピントが合わなくなり、自分が泣いていることに気づいた。僕の故郷はこんなにも美しかったのか。少し、寂しいなんて思っている。しょうがない。なにせ、僕はまだ12歳なのだから。長年住んだ場所を離れるというのは、なかなか寂しいものである。


僕の気持ちを無視するように、バスはどんどんスピードを上げていった。1時間ほど経ったところで外を見ると、なにやら様子がおかしかった。黒い巨大サボテンのような、お世辞にも植物とは呼べない何かがあちらこちらに生え、足がうじゃうじゃ生えた細長い生き物がそれを登っていく。灰色の風が吹いていて、おかしくなったのかと目を擦ったが、僕の目は正常だった。この空気を体内に入れてはいけない気がする。バスがガンガラガンガラ揺れ出したので、窓に顔を近づけ地面を見ると、整備された道路は、いつの間にやらゴツゴツとした岩場へと姿を変えていた。


さらに30分進むと、そこはもう完全に地獄だった。ぐつぐつと煮えたぎる真っ赤な池、血を垂れ流したような赤黒い空。ゴミ箱があるのに、周りにゴミや人の頭が散乱している。金棒を振り回したり、叫びながらフラフラ歩いたりしている、あれが鬼だろうか。本物の鬼を見たのは初めてだった。鬼はペッッと道に唾を吐いた。ここが、僕の希望溢れる新天地である。



次の日。

僕は新しい学校に登校した。街があんな感じなので、落書きだらけの学校に放り込まれるのかと緊張していたが、意外と普通の学校だった。校庭にはたくさんの彼岸花が咲いていた。父が、第一印象は1秒で決まるぞ!と言っていたので、僕は教室に入り、最初に深くお辞儀をして、顔を上げニッコリと笑いた。目を開くと、鬼たちは無反応だった。奥では三匹、僕を睨みつけている鬼。鼻で笑ったり、ヒソヒソ話をしている鬼、僕に全く興味を持たず、鏡を見ながらツノを整えている鬼。


「アッカー!」


そんな中、一人の鬼が両手を上げ、そう叫んだ。全身青色で丸っこいツノの、ぽっちゃりした鬼だった。僕は地獄語を知らないので、彼がなんと言ったのか分からなかった。


帰宅すると、母が大好きなハンバーグを作ってくれていた。

「天ちゃん、初日はどうだった?」

「なかなか悪くなかったと思うけれど、友達になるにはもう少し時間が必要かな」

「天、無理するなよ。焦らなくていい。自然と仲良くなれるさ」

「うん。ごちそうさまでした」

僕は自分の部屋に行き、一冊の本を手に取った。僕の大好きな本である。この作品の主人公を真似しているうちに、僕はこのよう口調になってしまった。何か悲しいことがあった時、僕は無意識のうちにこの本を手に取る。今日はなんだか少し疲れた。僕は、本を開いたまま眠りについてしまった。



次の日学校に行くと、僕の上履きが片方なかった。どこかに落としてしまったかと思い探してみるが、見当たらない。しょうがないので、僕は右側だけ履いて教室に入った。すると後ろの方から、何やらクスクスと笑う声が聞こえた。振り返ると、昨日僕を睨みつけていた鬼が三匹、僕の見窄らしい姿を見て笑っていた。この時僕は、靴を隠したのはこの三匹だと確信した。しかし、僕には方法が無かった。天国語で何か言ったって、彼らには分からないだろう。急に迫るのも違う気がする。僕には今、手札がない。とりあえず、何か仕返しがしたかった僕は、給食のおかずを盛る時、ピーマンを多めに盛っておいた。やられたら、しっかりお返しするのが僕の流儀である。


今日も、誰とも話さず一日が終わってしまった。どうしたら、みんなと仲良くなれるのだろうか。天国にいた時は自然と友達になっていたから、こんな風に悩んだことはなかった。下を向きながら、帰り道を歩いていた時だった。

「ダモーナ?」とひとりの、おばあちゃん鬼が声をかけてきた。僕はその意味がわからなかったので、首を捻り「ソーリー」と言った。ソーリー、センキューはどの時代、どの世界でも共通の言語だと思っている。それでもおばあちゃん鬼は「ダモーナ?ダモーナ?」と言ってきた。僕が困っていると、おばあちゃん鬼は何かを思いついたように、自分の心に手を当て、首を傾げてきた。僕はハッとした。きっとこのおばあちゃんは、「大丈夫?」と聞いているのだ。発音は分からなかったが、僕が「ダモーナ!」と返すと、おばあちゃん鬼は、安心したように笑った。僕は“ダモーナ”という手札を手に入れた。



次の日、学校に行く途中で、青い鬼が体をうつ伏せにして、何かを探していた。僕は後ろから「ダモーナ?」と声をかけた。鬼は驚いたように振り返った。それは、初日に「アッカー!」と叫んでいた男の鬼だった。名前はアオくんという。お調子者でよく先生に怒られているので名前を覚えた。

「ノ マタハ コエナ ウカ?」

「ん?」

僕が“分からない”という顔をすると、アオくんは排水口の中を指差した。除くと、きらりと光る銀色のものが見えた。僕は、昨日のおばあちゃん鬼を思い出した。排水口を指差し、持ち上げるジェスチャーをすると、アオくんは指で丸を作った。

「んん〜 よいっしょ! あっ! あった!」

それは、鍵だった。アオくんは「アーカサー」と言ってきた。僕がまた、首を捻ると、「アーカサー‥‥ア、リ、ガ、ト?」と言って、僕の手を握り笑った。

この時僕は、天国の友人、シロくんと初めて話した時のことを思い出した。あれは体育の時間、派手に転んだシロくんに僕が「ん」と手を差し出した。するとシロくんは「ありがとう!」と笑って、僕の手を掴んで、僕らは一緒に走った。


どうして、今まで気づかなかったのだろう。言葉が分からなくても、僕にはできることがある。仲良くなりたいのであれば、まずは僕から歩み寄らなくてはいけない。それは天国でも、地獄でも同じなのだ。


僕はその夜から、地獄語単語帳なるものを作り、毎日3つずつ単語を覚えていくことにした。まずは、“ダモーナ→大丈夫”“アーカサー→ありがとう”と書いた。そして、初日に彼が言っていた“アッカー”を調べてみると、それは「よろしくね」という意味だった。アオくんは、初めて会った時から、僕に歩み寄ってくれていたのだ。今更気づいてしまった。早く僕も“アーカサー(ありがとう)”と伝えたい。



翌朝。こんなに早く学校に行きたい朝は、地獄に来てから初めてである。

僕は下駄箱にいたアオくんに手を振った。アオくんも、僕を見つけて手を振り返した。僕がいきなり「アーカサー」と言うと、「??」と不思議そうな顔をして「マコッタ!」と返してきた。多分“マコッタ”は“どういたしまして”か“おはよう”だと予測した。隣の鬼の鉛筆を拾ってあげたら“アーカサー”と言われたので「マコッタ!」と言い返したら、「は??」という顔をしていたので、“おはよう”が正解だったようだ。


何かを伝えたいときは、ジェスチャーで伝えた。突然お腹が痛くなり「トイレに行ってくる」と伝えるときは、お腹をさすり、ウンチをきばる真似をした。するとアオくんは爆笑しながら、指で丸を作った。僕はついに遊園地まで表現できるようになった。もうすぐジェスチャーゲームの達人になれるかもしれない。


そして僕は、どうしてもひとつ、したいことあった。僕の上履きを隠した鬼に、返すよう交渉することだ。昨晩“返して”という単語を覚え、発音もバッチリ練習した。

昼休み。三匹の鬼のうち一匹、ボスくんだけ教室に残る。子分の二匹にジュースを買わせにいくのだ。チャンスは一瞬、一度きり! 僕は、チャイムが鳴ると同時に勢いよく立ち上がり、ボスくんが一匹になった瞬間、近づいた。ボスくんは、顔を上げて僕を睨んだ。

僕は自分の上履きを指差し「パッパ!!(返して!!)」と伝えた。ボスくんは、僕が地獄語を話したからか、すごく驚いた顔をしていた。そして少し考えた後、机の中から僕の上履きを取り出し、ポイっと投げた。僕は「アーカサー!」と言ったが、反応はなかった。



「テン マコッタ!(てんおはよう!)」

「テンチャン マコッタ〜!(天ちゃんおはよう〜!)」

「ター マコッタ!(みんなおはよう)」

地獄に来て3ヶ月。僕は少しずつ頭角を表していた。地獄と天国では、授業の進度にかなり差があるようだった。もう6年生だというのに、地獄ではまだ九九をやっている。「9×1が10」と言っている鬼がいて衝撃を受けた。僕は見事、数学のテストで100点を取った。みんなは僕の点数を見て「ライトット‥‥(天才だ‥‥)」と驚いていた。アオくんの点数を見ると3点だったが、アオくんは特に気にしていないようだった。

言葉もたくさん覚えた。クラスの鬼たちとは、単語とジェスチャーを交えた僕流のコミュニケーションで、かなり打ち解けることができた。家族で外食した際の注文は全て僕が行っている。

「タッパ モーラ ハンズ タヨラ (サラダとパスタとステーキください)」

そう言うと、店員さんはニッコリ笑って「アグーナ(了解しました)」と言ってくれた。


単語を繋げれば、案外伝わることに最近気づいた。そしてここでのポイントは、“笑顔でいること”である。こちらが笑えば、相手も安心して笑ってくれる。鏡のようだと僕は思った。



こんな感じで、最初はどうなることかと思った僕の地獄生活は、みるみると色をつけていき、ここは少しずつ僕の居場所となっていった。よく頑張った。僕自身を褒めてあげたい。

そして今日は、ついにクラスの友達が僕の家に遊びに来るのである。

母にこのことを伝えると、「ついに‥‥天ちゃんに‥‥友達が‥‥」と泣いて喜んでいた。実は、僕が学校でひとりぼっちなのではと心配していたらしい。学校が終わり、アオくん、隣の席のライちゃんと、その友達のアカちゃん四匹で僕の家へ向かった。

「クライカ!クライカ!(楽しみ!楽しみ!)」

「アオ マッヤ ホーク タ?(アオくんも初めて行くの?)」

「ダー!(うん!)」

なにやらみんな楽しそうである。家につき玄関を開けると、母がエプロン姿でお迎えしてくれた。そして「ウェルカーーム!」と大きな声で言った。母は僕よりも地獄語が話せない。そんな母にみんなは「カナッソ!‥‥パルト カンデ アルー(うわぁ、女神みたいに綺麗なお母さんだ)」と感動していた。僕の母は、学生時代ミス天国にも選ばれたことがある自慢の母である。みんなは「カニマッリヨ!(お邪魔します!)」と頭を下げた。

「天ちゃん、可愛くて素敵な友達ができてよかったね」と母は嬉しそうだった。

そしてクッキーや煎餅の入ったかごを机に置いて、「ごゆっくり〜」と下に降りていった。

「タマ モヤ?(これ何?)」とアカちゃんが聞いてきた。それは煎餅だった。

「ん〜〜。テンゴク スナック」

「カナッソ! テンゴク スナック!?(うわぁ!天国のおかし!?)」

「ゴッジャ ゴッジャ!(食べたい食べたい!)」

みんなは、初めての生命体に出会ったかのように煎餅をよく観察してから、ガリっと勢いよく齧った。そしてボリボリと味を確かめ、「ウモ〜〜ラ!!(美味しい!)」と、感激していた。

「モヤ アディ?(何の味?)」

「テンゴク ショーユ(天国の醤油という調味料だよ)」

「ナ ショーユ シットーナ!(私、醤油知ってる!)」

「ナモ〜〜(僕も〜〜)」

みんな天国のことが好きみたいで、いつか行ってみたいと話してくれた。天国での生活について聞かれたので、僕は、友人のシロくん、幼馴染のあまちゃん、お隣のわっくんのこと、そして春には綺麗な桜が咲くこと、僕の住んでいたところは田舎で、魚や野菜が美味しいこと、夏には、ずぶ濡れになって川で遊んだこと、木になっていた柿を取っておばあさんに怒られたこと、地獄に来る前に初恋の人に振られたこと、天国でのたくさんの思い出を話した。みんなんは、「ヨコユヤ〜〜(素敵だ〜〜)」とうっとりしながら、話を聞いてくれた。僕はその夜、何だか急に天国が恋しくなって、みんなに手紙を書いた。



「テン マコッタ!(てんおはよう!)」

「アオ マコッタ(アオくん おはよう)

まるで波のない海にぷかぷか浮いているような、穏やかな日々が続いていた。しかし僕は、とある異変に気がついていた。初め、僕をいじめていたボスくんが最近はずっと一匹でいるようだ。取り巻いていた子分二匹は、他の鬼と仲良くしているようだった。

「アオ ポッタ(アオくん、一匹だね)」と、ボスくんの方を見てそう言うと、アオくんは「あ〜」と僕が言いたいことを理解して、ボスくんのことを教えてくれた。命令ばかりするボスくんに嫌気がさして、子分たちが離れていったのだという。

移動教室の時、僕は勇気を出してボス鬼に声をかけた。

「カット タ?(一緒に行かない?)」

教室中の視線が、僕に集まった。

「ヨッタ(うるせー)」

そう言って、全く相手にされなかった。

「テン オイ タ(天、もう行こう)」そう言ってアオくんは、僕の手を引っ張った。


体育の時間、ペアを作ってパスの練習をする時もボスくんは一匹だった。僕がサッカーボールを持って近づこうとすると、背を向けてどこかへ行ってしまった。

「テン オイ ハジトンナ(天、もうやめとけよ)」

アオくんは僕を止めたけど、僕にはどうしてもボスくんが寂しそうに見えた。


その日僕は日直で、先生のお手伝いをして帰るのが少し遅くなった。下駄箱に行くと、鬼が二匹、何やらゴソゴソと怪しい動きをしていた。

「モヤ ハゴイ?(何してるの)」

僕が声をかけると、バッと振り返った。それはボスくんの元子分の二匹だった。その手には上履きがひとつ握られていた。

「ク ヌハグッテ(それ誰の)」

僕は、上履きを奪い取って名前を見た。それはボスくんの上履きだった。

「ずるいことをするな」と、そう言ってやりたかったが。なんて言うのか分からない。僕は、その鬼たちを睨んで「タマ ナ ナホカ パッパ!!(これ、僕の友達の!返して!!)」と、靴を抱きしめた。鬼たちは、「コンハ!(逃げろ!)」と去っていった。僕はなぜか、自分の靴を隠された時より、もっともっと悔しくて、涙が出た。少し遠くでタッタッタと、誰かが走って行く足音が聞こえた。


帰り道。ボスくんのことを考えていた。ボスくんとはいつか“強敵”と書いて“とも”と呼ぶ、そんな仲になりたいと思っていた。しかし正直、怖かった。彼がどう思っているか分からなかった。もしかしたら、迷惑かもしれない。僕のことが、本当に嫌いなのかもしれない。自分の思いを伝えることが、こんなにも難しいこととは知らなかった。


晩御飯の後、珍しくケーキが出てきた。大好きなチョコレートケーキだ。

「天ちゃん、最近も学校は楽しい?」

「うん、楽しい」

「そう。お友達を大切にね。何かを伝える時は、心を込めてね」

急にそんなことを言うので、母はエスパーなのかと思った。

でも、何だかストンと僕の心は決まったようで、ベットに入るとぐっすり眠れた。



次の日。今日もボスくんは一匹だった。

決めたはずなのに、足が少し震えている。僕は、ありったけの勇気を振り絞ってボスくんの目の前に立った。僕の掌はじんわりと汗を帯びていった。これでダメだったら、終わりにしよう。


「ナ‥‥(僕)」そして、ボスくんを指差してから、自分の両手で握手をして、心臓に手をおいた。


“僕、君と仲良くしたい”


そう伝えたいのだが、ちゃんと届くだろうか。ボスくんはまた下を向き、少しの沈黙が流れた。アオくんが僕の腕を引っ張った瞬間、ボスくんは顔を上げて、リュックサックからサッカーボールを取り出した。


“サッカー、一緒にやろうぜ”


僕の心にはそう伝わって来た。僕が笑うと、ボスくんが少し笑った。

僕の思いが、ちゃんと届いたのだ。その日、僕とボスくんとアオくんで日が暮れるまでサッカーをした。ボスくんはとても楽しそうだった。

帰り道、ボスくんは「コン ゴラニナ(靴、ごめんね)」と、靴を指さしていってきた。実は僕も、あの後すぐピーマン3倍のせをしていたので、それを謝りたかった。

「ピーマン」

「ピーマン?」

僕は手で、ピーマンの形を作った。それがハートに見えたのか、ボスくんは自分の心臓にハート型の手を当てて、にっこり笑った。

「ちが〜う」

「チガウ?」

僕たちは顔を見合わせ笑った。

すると、ボスくんはゆっくりと「トモダチ、ウレシイ」と言ってきた。彼の伝えたいっていう気持ちが伝わってきて、嬉しかった。「僕も!」と答えると、ボスくんも嬉しそうだった。不思議である。見た目も言葉も違う、色も形も違う。でもこんな風に一緒に笑って、友達になれた。もしかしたらこの世界には、天国も地獄もないのかもしれない。赤黒い空は、今日だけは夕焼けのように見えた。



1週間後の夜。天国の友人から手紙が届いていた。シロくんからだった。封筒を開け、見慣れた文字を見た瞬間、僕の頬にたくさんの小川が流れた。母の携帯を借りて、シロくんに電話をかけた。


「天ちゃんや〜久しぶり!元気?」

声を聞いた瞬間、また泣きそうになったが、僕はグッと堪えた。

「久しぶり!元気だよ。シロくんも元気かい」

「元気だよ!そっちの生活はどうですか〜?」

「まぁ、天国ほど快適ではない。言葉も分からず、苦労が多かった。が、何とか」

「すごいなぁ〜。僕も天ちゃんみたいにカッコイイ男にならなくちゃ」

「ん?」

「実は、好きな子ができまして‥‥告白しようかと‥‥あ、でもまだ悩み中」

「な!ついにシロくんにもそんな子が!それは、すぐにでも気持ちを伝えたほうがいいのでは。クラスは同じなのか」

「隣のクラスの女の子なんだけどね。ん〜、でも自信が持てなくて。どうしても、僕が彼女の運命の相手だと思えないんだ」

「大丈夫、運命などない。全てはシロくん次第である」

「ふふふ」

「どうした?」

「ううん。突然電話かけてきたから、落ち込んでるのかな?なんて心配だったけど、変わらず、天ちゃんのままだった」

「心配?」

「だって、天ちゃんって、どんなに悲しくても絶対涙見せなかったでしょ。僕の前ではいつもスーパーヒーローだったから、異国の地で無理してないか、少しだけ心配してた。でも結局また、僕が励まされちゃったね」

「もちろん苦労はしたが、持ち前のお気楽さでなんとか乗り越えた!僕はジャスチャーゲームの達人になれそうだ!今度帰ったら披露する」

「なにそれ〜」

「あっでも、野菜の表現が難しいんだ。まだまだ練習せねば」

「天ちゃん。ジェスチャーで会話してるの?」

「そうさ。僕は気づいてしまったのだよ。世界の仕組みに」

「ふふふ。なんか地獄も楽しそうだね〜」

「うむ。それなりに」





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地獄は地獄で、それなりに。 ※再 青いひつじ @zue23

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