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「んー。べつにたいした話じゃないんだけど……」
私の想いが通じたのか、マコはいちおうポーズをとる。気をつかいワンクッションおいたつもりになっているらしい。
だけど、けっきょくこいつはマコだ。ぺらぺらと話すことに変わりはない。楽しそうに口を開いた。
「満員電車のなかで、知らない人がおもいっきりぶつかってきました。相手は一瞬、怒ったような気がします。あやまった方がいいんでしょうか?」
「はあ?」
ゲンタが頓狂な声を出す。
「なんだよ、それ?」
質問形式のマコの言葉に、きょとんとなっているようす。話の意図があまりわかっていないらしい。カレーを口に頬ばりながら、興味なさげに教科書どおりの返事をする。
「ぶつかったんなら、いちおうあやまった方がいいんじゃねーか? それが礼儀ってもんだろ」
まあ、それ以外にこたえようがないのだろうと私も思う。
「じゃあさ、たとえば」
私の心の同意はともかく、マコは箸を持ったままテーブルに身を乗り出した。水を得た魚のようにいきいきしている。
「その場で軽くあやまったにもかかわらず、時間をおいてからもう一回あらためてちゃんとあやまるってのはどう思う?」
要領を得ないゲンタが質問を返す。
「どう思うっていうのは?」
たしかにわけがわからないとは思うけど、私は会話に入れない。というより、私をバカにする会話になんて入ってやらない。
マコはうわ目づかいで、きょとんとしているゲンタを見つめた。B型の淡水魚は、なにがそんなに楽しいのか瞳をきらきら光らせながら、大きな口をぱくぱく開く。
エレクトリカルの王子さま 成星一 @naruseni
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