俺、半日女の子やってます。

hiroshi_vii

朝は女の子、夜は男の子 その①

私の名前は、高橋 一花。

小さな田舎町に住んでいる。


私は毎日、朝起きては学校へ行き、授業を全て終えると友達と遊ぶ事も寄り道もする事無く家に帰り、夕方の5時頃には夕飯を食べ、6時頃には眠りについている。

そうでもしないと、「もう一人の私の生活を送る事」が出来ないからだ。


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この日も授業を終えた私は、チャイムが鳴り止む前に教室を後にし玄関口へと急いだ。

その途中で、クラスで一番人気のある男子生徒に声を掛けられたのである。


向こうは少し恥ずかしそうに、ソワソワしながらデートに誘って来た。

でも申し訳無いが、私は誘いを断った。

男子生徒は落ち込んでいたが、この子の事を大好きな女子生徒の事を私は知っている。

だからきっと、あの子が目の前の男子生徒を励ましてくれると思い、私は家へと急いだ。


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帰宅すると母親に夕食の後、一緒にドラマを観ないかと誘われた。

でも、そんな誘いに乗れるはずは無い。

何故なら今から仕事があるんだ。


母親は少し機嫌を悪くしていた。

でもこれも大丈夫だ。

家にはドラマが大好きな可愛い妹が居る。

きっと妹が一緒にドラマを観てくれるはずだ。


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私はシャワーを浴びた後、長い髪を乾かし布団へと転がり瞳を閉じた。

疲れを癒す為では無い、仕事に遅刻しない為にだ。


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目を覚まし時計の方を見ると18時8分。

私は・・・、いや違うな。

一花は眠りに着くまでに8分かかった様だ。


一花が眠りに着くたという事は、山﨑 蓮の夜が始まるという事だ。


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私の名前は、山﨑 蓮。

私も同じく、高橋 一花と同じ町に住んでいる。


・・・と言っても一花は14歳、私は34歳。

私の方が先に、この町で先に暮らしていた。


一花が、この世に生を受けて以降、私の身に不思議な事が起き始めた。

私が眠りに着くと一花として目を覚まし、一花が眠る私が目を覚ます様になり、眠りに着く事自体が無くなってしまったのだ。


最初は、一花という女の子に産まれた夢を見ているのだと思っていたんだが、夢にしては物凄く長かった。

口にした母乳は、私の口には合わず飲む事を抵抗すると具合が悪いと見なされ病院に連れていかれるし、ガラガラを目の前で振られても真顔で見ていたら、それはそれで物凄く心配をされる。


中でも一番心配されたのは、おむつに用を足すとお尻が気持ち悪いからと、トイレを我慢していた時の事だ。

私はおむつを外され不思議そうな顔をしていた母親が少し席を外した瞬間に、力強く寝返りを打ち、その場で用を足すと再び勢い良く元の場所に戻ったんだ。

 

物音に気が付き戻って来た母親は驚いていたよ。

何故なら不自然な位置に物が落ちているからな。

私は速攻母親に連れられ、謎の家族会議が始まったよ。

その時から身に付ける様に言われたのが、謎の赤色のミサンガだ。


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一花の話しは置いといて、私も私で苦労はしたんだぜ。

高校を卒業して直ぐに採用を貰っていた職場は、一花の保育園の時間帯と被るから夜間の警備員の仕事へと転職する事になったしだな、今までは一人称が「俺」だったものを、男女共に一番使われている「私」に変える事にもなったんだ。


正直、最初は長くて数ヶ月の悪夢だと思っていたよ。

でも気が付けば一花は14歳で私は34歳。

14年も、こんな生活を送っている。


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どうせなら少し違った地域の子に生まれて来たかったものだよな。

いつも家から仕事場までの間にある高橋 一花の家の前を通りながら、一花の部屋の方を眺め不思議な感覚になる。


この家の中にも私が居る訳だ。

しかも、この家の中の私は、今熟睡している。

そして私が眠りに着く頃、一花の1日が始まる訳だ。


でも、たまに思うんだよ。

私が80歳くらいになって、この世を去ったとしよう。

私の意識は、その頃、66歳の一花にのみ依存するのか?

それとも私に割り当てられていた時間は、また他の誰かとして、この眠る事を忘れた時間は続くのだろうか?


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後少しで仕事場に着く。

今日も男2人交代しあい、不気味にセンサーライトのみが作動している部屋や何も無い廊下を見回る作業が日が明けるまで続く。

同僚に菓子パンでも一つ買いに、コンビニへ寄って行くか。


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あれ?

コンバニの中に、一花に告白して来た男子生徒が居るぞ!

今の子は、19時くらいだったら普通に外に居るんだな。

私の頃なんて門限は、5時だった。

これがジェネレーションギャップってやつなのか?


にしてもだ。

告白をしに来た時は、緊張してソワソワしていたのかと思っていたんだが、この子は普段から、こんな感じの子なのか?


私はレジを済ませた後、コンビニの前の自販機で缶コーヒーを2本買い職場に向かおうとしていたのだが、同僚への手土産に成人向け雑誌を買って行こうと思い、再びコンビニの中へ入って行った。

俺の同僚は、言わば変態なのだ。


雑誌コーナーへ行くと、飲み物を入れている冷蔵扉の窓ガラスに反射している、告白して来た男子生徒の姿が見えた。

あいつは、ずっと同じ所で何をやっているんだ?


その時、私は気が付いてしまった。

その子が服の袖に何かを隠した事に。

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