第3話

 それからは、話題を変えて雑談を交えながら会議室へ戻った。ドアを開けると、既に次の議題の話し合いが行われようとしており、配られた資料を眺める者がちらほらといた。


 定刻となり、次の議題へ移った。催し物の話から、祭りの会場ブースの細かいセッティングの話が行われた。出店する店舗との折衝、町内会長の開会の挨拶の段取りなど、実際のイベントの一日の流れについての擦り合わせをここで取り計らった。会議は思ったよりも白熱したようで、既に灰色の空はデニムのような青に染まっていた。それに気付いて時計を見ると、3時間程経過していたことがわかり、再度驚いた。

「それでは今回の意見を元に、修正したプログラムを改めてご提示させていただきたいと思います。他、折衝等必要な部分については担当ごとに各自進めていただくものとして、問題なければ来週の今頃にまた会議を開く予定です。何か、最後に意見等ございましたら挙手をお願い致します。」

 と、会議は締めに入った。誰も何も異論はなく、無事会議は終了した。


 そのまま流れのままに事務所へ戻り、各自自分の仕事へ戻った。終業までの時間は1時間もなく、ちらほら内容を互いに再確認する者、次回の会議に向けて折衝の手続きについて腕を組んで相談する者、この場の話と関係の無い話をして談笑する者など、余韻を持った状態の中、私もイベントの注目ブースだったり、イベント当日の様子について予想などして語り合っていた。


 やがて定刻を過ぎ、帰路についた。まだ先程の余韻が、余熱があり、一人うかうかと、イベントについて、というよりその合間合間に成された雑談なんかを思い出して満足気になって酔いしれていた。


 ふと、矢で頭を撃ち抜かれたように疑問が突き抜ける。

(そういえば、達人。気付いたら居なくなってたな。いつ帰ったんだろう。)

 既にそれは境が曖昧なグラデーションの部分の記憶に存在していた。

(しかし、結局あのいないいないばあ。なんだったんだろうな。)

 そんなことを考えながら、仕事のことは忘れ、晩飯のことや、今日のテレビ番組のことやらを考えるうちに最寄り駅に到着した。


 もう外は黒ペンキをぶち撒けた漆黒に染まっていた。そうか、いないいないばあの、あの「ばあ」が無ければどれほど不安だろうか。そのまま居なくなってしまうかもしれない。実際問題「いないいない」も「ばあ」も、自分では決められず、自分でさえもわからない。あの達人が抱える不安こそ、我々が「いないいない」と目を覆い見えなかったもの。そして「ばあ」と言う人物は自分以外の第三者となることを。人は居なくなっても、やがて「ばあ」と訪れることもなく消えていくものだから。

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無彩色の男 善光大正 @yoshinoh

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