後継

 ニーナが僕と共にアイランク侯爵家の上に立つ。

 つまりは、僕がアイランク侯爵家の当主になり、自分がそれを支えるという構造を熱烈に押していたニーナの圧もあり、結局のところ。

 僕はガクとの約束通りにアイランク侯爵家の当主になるための行動を開始していた。


「……やることはなかったけど」


 まぁ、とはいってもほとんどユラナスの手で自分が当主の座に就くための準備は終わっていたんだけど。

 既にアイランク侯爵家の戦力は半減以下。

 そんな中で、少しでもいいから戦力を保持し、領地を守りたいアイランク侯爵家に仕える騎士団の司令部。

 前から僕やニーナと関係が深かったアイランク侯爵家内で有力な商人たち。

 僕がとっくの前に自分の下につけていた裏社会の連中。

 現政権に大きな不満を持つ労働者たちが集まっている組合。

 それらすべてにユラナスが話を回し、ニーナと共に、僕が当主になるための下準備を行ってくれていたおかげで、僕が何もしなくとも当主になれてしまうような状況が作られていた。


「さて、どうしようか」


 僕がやることなんてアイランク侯爵家の屋敷に侵入し、自分の父であるカマセを初めとするアイランク侯爵家の人間を捕まえること。


「彼らを……どう処理するか」


 そして、そんな彼らの処理を行うくらいである。

 地位を簒奪し、既に追放された身でアイランク侯爵家の新しい当主になる以上、前政権の人間をどうするか決めるのは僕の仕事である。


「お、お前……父にこんなことをしてただで済むと思っているのかっ!」


「」


「あ、貴方は……義母であるこの私に手を出そうなんてしないわよねっ!?」


「ちょっと!?お母さんだけ……わ、私は何でもするよっ!?助けてくれたら体だってっ!」


「……プライドはないのかよ、お前」


「お前は黙っていろよっ!」


 自分の父に、義母。

 そして、マセカを初めとする数人の兄弟、姉妹たちを前にどうするか頭を悩ませる。

 彼らとの良い記憶はない。一方的に嫌われ、ぞんざいに扱われた記憶の方が多い。

 特に、病弱で今も別荘の方でゆっくりしている僕の実の母親へのキツイ態度はかなり不快だった。

 

「……うーん」


 だが、別に殺したいほど憎いかと言われれば違うんだよな。


「まぁ、良いや……適当に罪人として鉱山にでも送り込もう」


 殺すのはちょっと。

 そんな気分を拭いきることが出来なかった僕はサクッと彼らを鉱山へと送ることに決める。


「まっ!そんなこ───」


「悪いね。僕は継承の式典すらもすっ飛ばしての侯爵家当主への就任になっているんだ。これから戦争をたたむのにかなり忙しくてね。お前らに構っている暇なんてないのよ」


 そんな自分の決定に対して不満の声をあげようとした己の家族の言葉を迷いなく切って捨てた僕はそのまま、彼らが閉じ込められている地下牢を後にして、歩き出すのだった。

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