ガクの思惑

 ガクとの約束。

 それは、支援の代わりに、僕とニーナがアイランク侯爵家の上に立つというものである。

 正直に言って、僕はその約束をフル無視するつもりでいた。

 その方法は簡単で、アイランク侯爵家そのものを消してしまえば、上に立つも、クソもないよね?という作戦である。

 アイランク侯爵家の領地をレジスタンスの構成員たちの国であるロイマール王国に編入させてしまうつもりだったのだ。

 そうすれば、もうアイランク侯爵家という枠組みそのものがなくなるので解決だろう……という考えだったのだ。

 レジスタンスの存在は今回の動乱の中でも際立った活躍を見せてくれていたしね。

 ニーナとガイアを中心とするニルシア小国軍が苦しんでいる中、しっかりと宣言通りに一つの街を制圧して、独立を宣言。そのまま兵力を率いて、カルミア王国軍の背後を叩いて戦況をガラっと変えてくれた彼らには出来るだけ報いたかったからね。


「……お前、ガクとの繋がりなんてあったっけ?」


 だが、そんな僕の思惑がガクにバレているのだとしたら、不味い。

 ロイマール王国の独立運動そのものが封じ込められかねない。

 あいつも侯爵家ほどの力を有する辺境伯。

 こちら側の独立運動を前もって潰しておくくらいはできるだろう。


「えぇ、ございますよ」


「……ふむ」


 僕はユラナスの言葉に頷き、内心でおはじきをはじく。

 ガクは何処まで知っているのか、ついでに言うとユラナスは何処まで知っているのか。


「何で、お前が来たの?」


「貴方の意思の確認の為ですよ。ガク様は貴方が何だかんだと理由をつけて、逃げるだろうから囲い込めとのことでした」


「お前じゃきつくない?」


 様々な答えを想定しながら、僕はユラナスに疑問の言葉をかけていく。

 ガクがロイマール王国のことを嗅ぎつけていなかったら何の問題もないんだけど……。


「私はニーナ様を買収しに動きます。というか、した後です」


「……はい?」


 だが、そんな僕の想定を軽く超えていくような答えを前に思わずアホみたいな声を上げる。

 

「おにぃっ!」


 その瞬間。

 僕の方にニーナが突撃してくる。


「一緒にアイランク侯爵家の上に立とうねっ!」


「……いや、えっ?何で?えぇ……?」


 すっごいノリノリの仕草で侯爵家の上に立とう。

 そう告げてくるニーナを前に、僕は困惑の言葉を口にするのだった……いや、僕の頭の中にあったもの、全部ひっくり返されそうなんだけど。

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