もう一人
自分の前に膝をついている者。
「……君か」
それは僕もよく知る女性だった。
「既に追放された身である僕に様をつけて、どうしたんだい?ユラナス」
自分の前にいる全身鎧を身に纏った精悍な顔つきの女性はカシージャスと同格の人物として、小国を単独で落とせる存在として、この戦場に派遣されている騎士王ユラナスたるだった。
ユラナスもまた、カシージャス同様にアイランク侯爵家と縁近い人物だった。
カシージャスのように、アイランク侯爵家の配下だったわけではないが、それでもそれに近しい立場として、王家から国境部に近い我が家へと派遣されていたのがユラナスだ。
そんな彼女が、僕の前で片膝をついて自分に頭を垂れているのは中々問題だろう。
「貴方に、お話が合ってまいりました」
「聞こう」
そんなことをしてまで自分に告げようとするユラナスの言葉に僕は頷く。
戦場は既に止まっている。
自分たちのエースとしてこの場に紛れていたユラナスが僕に頭を垂れているのを見てカルミア王国軍は動きを止めざるを得ず、また、ニルシア小国の方も僕が止まった時点で動きを止めている。
いや、僕が止まったというよりも、カルミア王国軍が止まったから、かな。
「頼みごとがあるのです」
「ほう」
そんな風に状況を冷静に分析する僕へとユラナスはお願いがあると切り出してくる。
「貴方にアイランク侯爵家の当主になってほしいのです」
「はぁー?」
そんなユラナスが口にした願い。
それを聞いた僕は困惑の声を上げる。
一体、何を言っているのだろうか?こいつは。
「嫌だけど」
僕は普通にユラナスの願いを断る。
「なる理由がない。明らかに面倒なことになるのが分かり切っている当主の座とか嫌だよ。反発あるでしょ。どうあっても」
「貴方であれば収められるはずです」
「そんなことしたくない」
食い下がってくるユラナスに対し、僕は断固とした態度を見せる。
「ガク様とのお約束……」
「むっ」
だが、そんな僕へとユラナスはそう簡単に無視できることの出来ないことを口にするのだった。
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