手札

 カルミア王国への宣戦布告。

 それに対して、戦うことを決めたニルシア小国と帝国の王子(?)であるガリア。

 

「ふぅー」


 それらを受けて自分たちも戦うことを決めた僕はまず、自分の手札の確認を行っていた。

 とはいっても、そこまで多いわけではないが。

 まず、僕の手札としてあるのはドラゴンスレイヤーとしての名声。

 次点に、冒険者として活動をする中で出来た横の繋がり。

 他には、竜のうろこを売ったりした商人や傭兵たちになってくるだろう。

 ただ、これはあくまで僕が貴族家を追放された後に築き上げたものだ。

 自分が貴族家を追放される前、その時にも僕は札を仕込んでいた。


「ニーナもニーナで色々と持っていそうだけど」


 幼少期の時を僕は何も永遠にダラダラ過ごしていたわけじゃない。

 自分が追放された後の人生を下支え出来るような下地は作っていた。


「幼少期……今、思い返すと激動だったなぁ」


 完全アウェー下にある家での立場とか、暴走しそうになっているニーナの対処とか、自分の父が当主であることに反感を持っている層が僕を当主にしたて上げようとしていたりとか。

 本当に色々あった。

 

「よっと」


 そんな中で、僕がやってきたことはさほど多くないのだが……一つだけ、確固たるものが存在する。

 

「ここに来るのは久しぶりだね」


 それは裏社会の統制と裏を統べる組織の乗っ取りである。


「誰か、いるかな?」


 ニルシア小国の王都。

 その大通りからは逸れた裏路地。

 その裏路地内にある倒壊した家屋の暖炉口から行けるようになっているもう使われてはいない遥か過去の下水道へと足を踏み入れた僕は軽くあたりを見渡す。

 そして、僕は迷いなく魔力を込めた指で下水道の壁を叩く。


「……」


 それから待つことをほんの少しばかり。


「おかえりをお待ちしておりました。アカギ様」


「やぁ、久しぶり」


 赤城。

 己の前世の名前であり、自分が裏組織に関わっているときに使用している偽名が聞こえてきた方向に振り向いた僕はそのまま口を開くのだった。

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