世界の変革

 カエサルとニーナが家でのんびりと過ごしていた頃。

 世界情勢は急速に変化しつつあった。


「まだ帝国の方には帰らないのですか?ドラゴンスレイヤーの異名を持って帝国に凱旋し、ご自身の名声を高めた方がよろしいのではないでしょうか?」

 

 未だに帝国へと帰っていないガリア。


「いや、ここだ」


 そんな現状に疑問を呈する己の部下に対して、ガリアは力強い言葉を返す。


「世界が変化するのはここだ。ここから世界が変わっていくんだ」


「……はぁ」


「俺たちの帝国が、本当に世界を制覇出来てしまうかもしれねぇ」


 ガリアは楽しそうに笑みを浮かべながら口を開く。


「この世界において、一番重要なは強力な個だ。どれだけ良質な兵を集めようが、一騎当千の怪物を前にすればんなもん意味はねぇ。んで、ここには世界を変えてしまうような人材が二人ほどいる」


「それは、陛下と共に竜を殺した二人ですか?」


「あぁ、そうだ。あいつらはでけぇ。あまりにもな」


 特に、カエサルの野郎がな。

 ほぼ単独で竜を殺したともいえるような圧倒的な姿を思い出すガリアは頬を朱色に染めながら舌なめずりを一つ。


「そして、あいつらの存在が大きな変化を与えるさ、力以外の部分でもな」


 二人の存在によって、カルミア王国の方がごたごたし始めているというのもガリアは掴んでいる。


「何とか、結婚してぇなァ。あのかっけぇ男と」


 ガリアは確信していた。

 カエサルを中心として、この世界が変わると。

 彼がいるべき場所にさえいれば、世界の変革の場に参加できる……そして、それは、自身が帝国において女の身でありながら皇帝になれるということでもあるのだと。

 そう、確信していた。


「カエサルの血筋は俺らとも近しいからな」


 ガリアは沸き立つ。

 世界の変革の時を待って。


 ■■■■■


「クソがっ!なぜだっ!?何故、何故、急にここまでっ!?」


 そんな、ガリアの予感を示すように今。

 アイランク侯爵家では大きな動揺と混乱が広がっていた。


「なんでだ……何で、商人連中が俺の言うことを聞かんっ!それに、何時までも隠していられないっ。追放した餓鬼を追って我が家の娘が逃げ出したなんていう情けない事実をっ!はぁ……はぁ……はぁ……クソがっ!何故、何故この俺の思い通りにならない」

 

 カエサルを追放させたアイランク侯爵家の当主は荒れ狂う。


「かくなる上は……」


 長き歴史による繁栄を享受し、そして、その光が伸びるままに広げていた腐敗の闇も合わせもつカルミア王国は今、動き出そうとしていた。

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