理由

 ニーナとおはようの挨拶を終えた後。


「これは何?」


 僕は自分の足についている足枷について彼女へと疑問を投げかける。


「拘束具です」


「うん、そうだね」


 それに対するニーナの答えはあまりにも簡潔だった。


「その上で聞きたいのだけど、何で?」


「最近のお兄様は忙しすぎです」


「……はぁ」


 僕はニーナの口から出てきた説明にとりあえず頷く。


「前は平穏な日常がありました。ですが、それが今の生活にありますか?毎日、何かに襲われるように色々なところに顔を出して何やらかんやら……忙しいとは思いませんか?」


「まぁ、そうだね」


 僕も昨日、王女様から告白される前に思っていたことだ。

 最近忙しすぎるし、いい加減呼ばれたパーティーすべてに出るのは辞めるべきかなぁっと。


「私たちの、私たちの生家のことを気にしているのかもしれませんが、あの家にそこまで大きなことを起こすだけの力はないですよ。少なくとも、他国にいる私たちへと干渉出来るほどではありません」


「……」


 それは、それは過小評価しすぎだと思うけど。

 古くよりある名家たるアイランク侯爵家を……まぁ、僕も僕で過剰に警戒しているところはあると思うけど……ただ、それでも過小評価よりは過大評価の方がマシじゃない?


「もし、家の方で危険があったとしても、既にもう十分でしょう。そんなパーティーに出る必要はありません。そろそろ、家で休むべきです」


「うん、そうだね」


「そういうことです」


「そっかー」

 

 ……。

 …………。

 ん?今の説明の中に僕が拘束される理由ってあった?


「わかってもらえましたか?」


「……まぁ」


 それでも、まぁ、良いか。

 そろそろこれも壊せそうだし。


「確かに、ここ最近は忙しすぎたもんね。そろそろゆっくりしようか」


 パーティーに行って、王女様と顔を合わせても気まずくなっちゃいそうだし。

 うん、そろそろ家でゆったりとするべきターンなのかもしれない。


「えぇ、わかってくれたならよかったです。それで───」


「よっと」


 自分の足首についていた足枷を問題なく壊すことが出来た僕は軽い動きでベッドから出て、軽く体を伸ばす。


「えっ……?えっ?」


「朝ごはんは食べた?」


 そして、そのままニーナへと朝ごはんを食べたかどうかを尋ねる。


「い、いや……まだ、ですが」


「それじゃあ、作りにいこうか。朝ごはんは一日を良くするために最も重要なことだからねっ」


 ニーナの言葉を聞いた僕は笑顔で頷き、そのまま寝室を出て一階のキッチンの方に向かっていくのだった。

 

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