返事

 王女様より告げられた愛の言葉。


「……ごめんなさい」


 それに対して、僕は深々と頭を下げながら答える。


「……どうしてですか?」


「正直なことを言うと……自分は今の今まで、色恋のこととか考えたことはなくて」


 王女様からの告白。

 それは素直に嬉しかったし、初めて告白されたという事実に浮つき立った。


「今の僕には色々と問題があって」


 でも、今の僕は色恋に現を抜かしているような現状にはないと思っている。


「……僕は今のところ、家を追放された身で、この国に来たのは自分の生家から暗殺者を差し向けられたからなんです。この後も、何事もなく終わるとはあまり思っていないんです。何時、自分の立場が変わるかわからないですし」


 そんな身で一人の女の子の人生を背負う権利はないと思う。

 

「それに、既に僕の隣にはニーナがいますから」


 ただでさえ、既に一人背負っているのだ。


「彼女がもっと大きくなって兄離れして、独り立ちして……そうなるまで、僕はニーナのことを考えてあげたいんです」


 ニーナが生家の方から出てきたのは家が安泰じゃないから、などと言っていたけど、間違いなく彼女の態度を見るに兄離れ出来ていないからだと思っている。

 自分を慕い、追ってここまでやってきてくれた自分の大切な彼女を放りだすきにはなれなかった。


「そう、ですか……」


「……はい」


 後、これは彼女にはあまり言えることじゃないけど……ちょっと、王女様って怖いんだよね。

 初めて会った日とかが特にそう。別れてから一時間も経っていない間に名乗ってもいない僕の本名を探り当てたり、自分の家を特定していたり。

 時折、こわっ……ってなるところがあるのよね。


「それじゃあ、私のことは嫌いですか?」


「嫌いではないですよ」


 まぁ、だからと言って王女様のことが嫌いなわけじゃない。

 むしろ、自分と仲良くしてくれている女の子なので普通に好きではある。


「……ただ、今は少し」


 それでも、僕は今、彼女を作ったり、という心持ちではなかった。


「そうですか……」


「ごめんね」


 自分への好意を伝えてくれた王女様に対して、僕は再度、ごめんねと告げるのだった。

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