本物
僕が何かを感じ取って視線を向けた先。
「どうしたんだ?」
「どうしたんですか?」
「どうしたの?おにぃ」
「……何か来ているな」
その遠い向こう側に、こちら側へと近づいてきている何かしらの生物が存在していた。
まだ、遠すぎて何なのかはわからないが。
「でも、普通に見えないな」
何かが近づいてきているのは自身の気配察知の魔法によって確認済みである。
だが、それを目視することは魔法で視力を強化してもその存在を見つけることは……いやっ!?上かっ。
僕は視線を勢いよく持ち上げて何かを睨みつける。
「おっとと」
それで確認できたのは一つの大きな黒い影だ。
「ねぇ、おにぃ。何が見えているの?」
勝手に一人で何かを見ている僕の服の裾をニーナが引っ張り、疑問の声をあげてくる。
「いや、何かが近づいてきていて……何だ?あれは」
「本当に見えてやがんのか?俺の目には何も見えてないが」
「はぁ?お兄様がそれらを間違えるわけないでしょう。冗談を言うのも大概にしてください。お兄様を侮辱することなど許しませんよ?」
「おぉん?王子たる俺に見えないもんがただの貴族風情に見えると?」
「王子じゃないでしょう、貴方」
ニーナとガリアの方が色々といがみあっている中、僕は一人冷静に黒い影がなんであるかを確認していく。
「相手はなんでしょうか?」
「んー、と、待ってね?」
僕は自分に疑問の言葉を投げかけてくる王女様への言葉に待つように言いながら、目を凝らす。
「あれは、竜か……?」
黒い影、その正体は恐らく巨大な竜だ。
「……」
それも、かなり高位の。
僕がかつて倒した、ただ人間をわずかに食べて細々と食いつなぎ、ただただ命を長らえていただけの臆病ものの古竜ではない。
戦いの中で経験と力を積み、確固たる力を紡いできたれっきてした竜であり、なおかつ長きを生きる古竜でもある。
「なんで……?」
臆病者の竜でさえ、Aランク冒険者であっても苦戦するような強さを持っている。
そんな中で、経験豊富な竜など……どれだけの実力なのか、想像することは結構難しい。うん。僕でも難しい。ゲームには出てこなかった。
「そーんな奴が何で向かってきているの?」
そのような存在が、確実にこちらをターゲットとして近づいてきているという状況に僕は首を大きくかしげるのだった。
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