譲れない一線

 再三に渡る勧誘。


「いや、お兄様は私と暮らすのでそんな選択ないですけど?」


 それに対して、誰よりも先に答えを出したのはこれまで沈黙を保っていたニーナの方だった。


「さっきから聞いていれば……大前提として、お兄様は私のものなんです。そこの王女のものでも、王子崩れのものでもなく私のものなんです。勧誘なんて愚行、私が許すわけないじゃないですか。一体、何を勘違いしているのですか?すべての前提においておかしいのです。お兄様は私のものであると共に、お兄様は私のことを第一と考える。そう言ってくれているのです。お二方が介入してくる余地などないのです」

 

 敬語モードのニーナは確固たる態度で僕の立ち位置を明確なものとする。


「人の人生とはなかなかにわからないものですし、少なくとも本人以外が何かについて語るのは良くないと思いますよ?」


「ただの妹だろう?妹如きで自分の人生を左右するような決断を鈍らせるのか?」


「まぁ、そうですね。家族ですし。当然、一番大事ですよ」


 自分に甘えてくれる妹なんて可愛いでしかないからね。

 

「それに、ここでの決断が僕の人生を左右するとは思えませんし」


 帝国の方に取り入りたいのであれば、普通に実力で成り上がればいいのだ。

 実力主義の色が濃い帝国なら、目に入った将軍クラスを片っ端からボコボコにしていれば、誰かかしらの王子が僕のことを重用してくれるでしょ、多分。


「おぉ?存外に舐められているのか?俺」


 いや、別にそんなに舐めているわけじゃないけどね?

 ただ、僕の実力であればどうとでもなると思っているだけで。


「そもそも貴方風情がお兄様を幸せに出来るのですか?私はまだ生家の方のつながりは残してありますし、分家の方であればそのほとんどが自分の手のうちです。世界各国にも私のコネクションがありますし、自分は世界でも有数の商会を所有している身です。ありとあらゆる面で、私はお兄様に自由な生活をもたらせると思っています」


「んっ……?」

 

 何それ、お兄ちゃん。そんなの聞いていないよ?

 あと、何で兄の方が妹の保護をうける前提で?別に僕だってそんなヤバいわけじゃないよ?別に何かあっても全部を叩きのめしてトンズラかませば何の問題もなくなるし。


「ずいぶんと兄妹間の絆が強いこって」


 ガリアが僕たちの様子を見て、何とも呆れた様子のまま声をあげたその時。


「……んっ?」


 遠方より何かを感じ取った僕はそちらの方に視線を向けるのだった。

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