性別

 神速の諦めに神速の方向転換。


「うーん……中々に面白い話ですね。それは」


 それを見せる帝国の王子に対して、僕は悩ましそうに言葉を詰まらせる。


「カエサル様……」


 そんな僕へと王女様が不安げに声を上げる中、言葉を進めていく。


「本格的に話を聞くよりも前に、まずは貴方の自己紹介をから聞いてもよろしいですか?」


「ん?あぁ、そうだな。確かに、まだ自己紹介もしていなかったか。俺はオルスロイ帝国の第一王子。ガリア・オクタリアヌだ。よろしく頼むな?これから」


「おぉー、ずいぶんと男らしい名前なのですね」


「……っ」

 

 自己紹介を聞いた僕がまず真っ先に告げた言葉。

 それを受け、帝国の王子、ガリアの表情が歪む。


「まぁな、良い名だろう?」


 だが、それも本当に一瞬ですぐさま立ち直って自分の名前を誇る。


「えぇ、本当に良い名です。単なる性別ごときに縛られるのもくだらないですからね。女の子でありながらも男らしい名前を持つ良い名だと思います」


「……」


 それに対して告げた、お前、女やろ?と、真正面から叩きつけるような僕の言葉を聞いたガリアから表情が消える。


「……お前、性格悪いな」


 そして、そのまま僕への不満を露わにした言葉を上げる。


「そんなことないですよ?性別なんて気にすることないと思います」


「お前、本当に性格悪いな?王子を名乗る存在が女だと知って、気にする必要はないって。どう考えても悪意あるよなぁ?」


「ふふっ」


 現代を生きる僕からしてみれば、行き過ぎたものはちょっとどうかと思うが、LGBTも別に各々の好きなようにすればいいと思う。

 だが、男性優位の価値観の残っているこの世界だと男女関係ないよね、ってはなってくれない。


「……最低の笑顔だ」


「いやいや、別に悪意とかはないですよ?ただ、僕を引き抜けるだけの権限があるのかな?って思っているだけです」


 女でありながら男であると偽って存在している帝国の第一王子。

 その立場はこれこれ以上ないほどに不安定なものだろう。


「……なるためにお前がいるんだよ。俺は母から皇帝になることを望まれて生まれ、男装してまでここに立っているんだ。俺は皇帝になるためなら何だってやる。故に、来い。俺を支えろ。俺は、根底の弱い俺を支えてくれた相手のことを忘れるほど薄情じゃねぇ」


 だが、その上でガリアは諦めることなく自分の立場の弱さすら利用して再度、僕を勧誘しに来るのだった。

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