七面鳥

 王女様と女騎士が帰った後。


「何なのですか、……何なのですか。あの女はぁ。私のお兄様に」


 ニーナは玄関に立ち尽くしたままこれ以上ないほどに怒りを露わにし続けていた。


「……ふふっ」


 そんなニーナを前に、怒りを露わにし続けている彼女に慣れてきた僕は思わず笑みを漏らしてしまう。


「……なんですか?お兄様」


 そんな僕に対して、自分の隣にいるニーナが実に不満げな声を向けてくる。


「いや……なんか、ちょっと嬉しくて、ニーナがそんなにも僕のこと好きでいてくれているんだなって思ってね」


 そんなニーナの言葉に対して、僕は素直な感想を口にする。


「えっ……?」


 前世において、姉妹のいる友達から聞いていたのはあいつらが暴君であるという評価であり、そこに愛情なんてない、なんてことを話していた。

 それなのに、今でもニーナが僕のことを強く慕ってくれているのに、兄として堪えきれない喜びを覚えるのだ。

 こんなに兄に対して、嫉妬心を向けてくれる妹なんて中々居ないだろうし……普通に可愛いよね。

 前世の時には可愛い弟、妹が欲しかった一人っ子としては今の状況が普通に嬉しいよね。なんか。


「大丈夫だよ、ニーナ」


「……」


「少なくとも自分についてきてくれたんだからね。途中で君を投げ出すようなことはしないさ」


 僕は自分の隣にいるニーナの頭を撫でながら告げる。

 予想外の出来事だったとはいえ、ニーナは家出して、そのまま僕のことを頼ってくれたのだ。

 そんな妹を自分から遠ざけるなんてことはしないさ。


「ほら、七面鳥食べよっ?せっかく作ってくれちゃうのに覚めちゃうよ」


「も、もぉー!おにぃは本当に私のことが大好きなんだからっ!そうだよねっ!うん、確かに冷めちゃう!あんなのは忘れて早くリビングの方に戻ろっか!」


 これまで怒りを抱いていたニーナは僕の言葉に満足したのか、上機嫌な様子でリビングの方に向かっていく。


「……」


 そんな彼女の後ろ姿を僕は感慨深く見つめる。

 何時まで。ニーナが兄のことをおにぃ、おにぃ、と慕ってくれるかはわからないけど、慕ってくれているこの時間は宝物のように大切にしたいよね。

 いやぁー、これでニーナから好きな男が出来たなんて言われたら、そいつのことを殺しにいっちゃうかもしれないなぁー。

 ちょっとだけ世にいる父親の気持ちがわかってきたぞ……ぐぅ、自分が結婚して娘が出来たら、これと同じことを考えるのかぁ。

 いや、でも。

 

「……ふふっ」


 まだ全然、すべてが仮定の話だけど、自分の妹や娘が愛する人の隣でウェディングドレスを着て笑っている姿は見たいな。きっと、最高に美しいんだろう。


「どうしたの?おにぃ」


「あぁ、うん。ごめん」


 そんなことを考えながら、僕は意気揚々とリビングの方に戻るニーナの後を追いかけるのだった。

 

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