わけ

 いつもとはあまりにも雰囲気が違うニーナを前に僕は口を閉ざす。


「……」


「……」

 

 そして、それと共にニーナの方も口を閉ざしていたために、僕たちの間には幾ばくかの沈黙が入る。


「えっと、……どこで、何をしていたか、だっけ?」


「えぇ、そうです。これだけ女の匂いを纏わせて。どこに何を?」


「いや、ちょっと野暮用で外に出ていたらたまたま命を奪われかけていた女性陣がいたのを見つけて……それで助けてきただけだよ?」


 前世についてのことは話せない。

 なので、僕は一切当たり障りのないことを口にする。

 ちなみにだけど、『たまたま』というところ以外は何の嘘でもない。


「……本当に、それだけですか?もし、何か用事があるのでしたら、私にも教えてくださればよかったのに」


 野暮用があったのも本当だからだ。


「いや、違うんだよ」

 

 敬語のニーナ……すっごい違和感がある。

 どうしても、堪え切れない違和感を抱きつつも、それでも僕はニーナへと声をかける。


「ニーナにちょっとプレゼントを渡したくて……」


「……えっ?」

 

 僕は自分が魔法によって作り出している異空間より一輪の花を取り出す。

 これは僕が王女様たちを助けに行くよりも前に摘んでおいたものであり、決して枯れることはない永久の花と呼ばれているものだ。

 美しい見た目と芳しい匂い、そして何よりも永遠ということから多くの貴族に人気の花であるために希少性は高い……そんな花があの王女様を助けた場所の近くに咲いていたのをゲームのサイドストーリーで見ていたので知っていたのだ。


「ほら。今日ってば、ニーナと僕が始めて顔合わせした日だから」


 基本的に貴族の赤ん坊は三歳になるまで、病気に罹ることがないように魔法によって隔絶された空間で生活することになっている。

 なので、僕が自分の妹であるニーナと出会ったのは彼女が三歳になった時のことであり、ちょうど今日この日が自分たちの顔合わせた日なのだ。


「覚えて、いたのですか?」


「それはまぁね……普段はわざわざお祝いにするようなことじゃないけどさ。今は僕たち二人じゃん?なら、この日も大切なものにしようかなぁ、って思って」


 別にこれは王女様救出のついでじゃないよ?どちらも大切なことだ……まぁ、この花の存在を思い出したのはサイドストーリーのことについて思いを馳せたからだけど。


「どうぞ、この花が象徴するのは永久……このまま二人で何事もなく生きられたらいいねっていう思いを込めた花だよ」


 まぁ、そんなこと言う必要ないよね!

 僕はちょっと些細なことを取り除いた、それでも心の底から、本心より出てくる言葉と共にニーナへと花を渡す。


「え、えへへへへへへ」


 そんな花を僕からを受け取ったニーナは先ほどまでの冷たい雰囲気を一変させ、何とも愛らしい笑みを浮かべてくれるのだった。

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