帰還
森の方から王都に戻ってくるまでの間にそこそこの時間が経過していた。
家を出たのは昼で、今はもう夕方頃。
「そろそろ王都ですね。これから王城の方に招待させてもらいます」
「……」
既に僕はかなり焦っていた。
それはもうかなり焦っていたのだ。
不味い……本当に不味い。ここまで遅いとニーナに心配をかけさせてしまう。
「……聞いておりますか?」
王都へと入る馬車用の門。
そこに並んでいる最中の僕は冷や汗を垂らしながら何とかここから逃げ出す方法を考える。
今から王城に、なんて無理な話である。
人見知りでパーティー等を好まないニーナは王城に行くなんてまず拒否するだろうし。
夜遅くまでニーナを一人にはできないだろう。
「王女様!ど、どうなされたのですか?」
そんなことを考えていた中、自分たちが乗っていた馬車へと門番の連中が近づいてくる。
ラッキー。
恐らくは王女の馬車に見知らぬ餓鬼が乗っていることに驚いたであろう門番たちが近づいていくのを見て内心でほくそ笑む。
「あっ、王女様。自分はこの辺りで失礼致します」
「えっ……?」
「それでは失礼します」
僕は軽い足取りで馬車の御者台から降りる。
「お、お待ちを!」
「すみませんが失礼しまーす!」
そして、そのまま個人用の門にまで移動し、門番へとAランク冒険者としてのタグを見せて楽々と王都の中へと入っていく。
「ただいま」
王都へと入るための門から自分の家まではそんな距離ない。
僕は直ぐに家へと戻り、そのまま家の中へと入っていた。
「おかえりなさい。お兄様」
「んっ……?」
玄関に入るなり、僕を出迎えたのはニーナであった。
ただ、出迎え方がおかしかった、
玄関の扉を閉めて靴を脱いで家に上がる……そんな僕をニーナが出迎えるのであれば普通、彼女は自分の家にいるべきだ。
「……ニーナ?」
なのに、ニーナはいつの間にか僕の背後にいて、こちらへと背中側から優しく抱きついていた。
「今まで、一体どこに行っていたのですか?お兄様」
「に、ニーナ?」
僕の知っているニーナじゃない。
その口調も、雰囲気も……でも、後ろにいるニーナの気配は確実に僕の知っているもので……。
「いっつ!?」
僕が心の底から困惑していた頃、急にニーナの抱きしめる力が強くなってくる。
「こんなにも、女の匂いを擦り付けて来て……ッ、お兄様?何をしていたのですか?」
「……っ」
不味い。
背筋が凍るような悪寒のする中で問われるニーナの言葉に対して、僕は何も言えずに口を閉ざすのだった。
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