暗殺者

 僕は致命的な攻撃を叩き込む……その寸前で動きを止める。


「……お久しぶりですね、おぼっちゃん」


 その理由は、自分の前に立つその男が、自分の命を奪おうと剣を振るったその男、が僕のよく知る人物であったからだ。


「……爺や」


 流石に、流石にわかる。

 今、自分の前にいる男がずっと自分を育ててくれていた使用人、爺やであることなどっ。


「えっ……?」


 なんで、なんで、なんで。……あの、優しかったあの人が、僕を育ててくれた人が……いや、違う。


「何故、貴方が……?」

 

 僕は動揺を抑えながら、彼へと疑問の声をなげかける。


「しっ!」


 だが、それに対して爺や答えるよりも先にニーナが動いた。

 一切の迷いなく、ニーナが爺やへとその手にある大剣を振りぬいたのだ。


「ちょっ!?」


 それに対して、僕は大慌てで結界を発動させて受けきってみせる。


「おにぃ……そいつはおにぉの命を狙ったんだよ?」


「だとしてもっ!せめて行動の理由くらいは……」


「それで聞いて真っ黒で、それでもおにぃはそいつを殺せるの?」


「……っ」


 ただでさえ、……ただでさえ、基本的に僕は他人を殺したくないのだ。

 異世界は現実とは違う。

 それとてわかっているし、人の命がぞんざいに扱われていることも、自分で己へと襲い掛かってくるものを返り討ちにしなくてはならないタイミングがあることも。

 ただ、それでも自分の手で知人を殺す覚悟は、その覚悟は、別だ。


「……私を殺さずとも大丈夫ですよ。ニーナ様」

 

 僕がニーナの言葉に対して何も答えらずに詰まっていた中、代わりに自分の前に立っている爺やが口を開く。


「……何?」


「どうせ、私はこの後自殺しますので」


「爺やっ!?」


 はっ!?じ、自殺……っ!?何を言って!?


「逃げてくれなされ、おぼっちゃん……貴方の御父上がその命を狙っていらっしゃいまする。この場にいる面々は全員、御父上雇った暗殺者にございます。私は、御父上に仕えるお抱えの暗殺者だったのですよ……この後も、きっとおぼちゃんを狙って多くの暗殺者が貴方の元を訪れるでしょう……どうか、海外へとお逃げを」


「そんなことより爺や!」


「いえ……私は既に自分の家族が命を握られていますので。命を賭して戦った。その事実が必要なのです。もう、十分ですよ。家を追われても逞しく生きていっておられるそのお姿を見られたのですから」


「……ッ!?」

 

 想定外の爺やの言葉に僕は体を強張らせる……今、なんて?


「では」


「……ぁ」


 僕が体を止めた。

 その瞬間に。

 爺やが己の心臓を魔法で打ち抜いてしまう……体を硬直させてしまっていた僕は、何も動くことは出来なかった。


「……えっ?」


 僕はゆっくりと倒れていく爺やを見ながら、呆然と動きを止めるのだった。

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