基本的に高級ホテルというのは客の事情には深く関わらない。

 数多くの権力者が宿泊するそれらの場所ではその事情に少しでも深く立ち入れば、その夜には遺体となっているなんてこともしばしば起こる世界である。

 そんな場所では従業員が客の事情に関わらないのは当然のマナーであり、護身術であるとも言えた。

 そして、そのマナーはその相手が例え、未だ成人していない幼い二人組であっても適用される。

 常識的に考えれば未成人二人での宿泊など認められることはあまりない、普通に自警団の方へとしょっ引かれて終わりである。

 そんな中で、僕とニーナが高級ホテルに身を寄せるのは至極当然であると言えた。


「おにぃ!ここで負けたらホテルに帰れなくなっちゃうよっ!」


 だが、そんな高級ホテルに連発していたら問題となるのは金銭の問題である。

 はっきり言おう。

 ホテル、高い。めっちゃ高い。

 普通に金がキツイ。別に普段の生活が派手なわけじゃないが、ホテル代でほとんどお金が飛んでいくので洒落にならない。


「わかっている、さっ!」


 なので、基本的に僕たち兄妹は毎日のように依頼をこなしまくり、頑張って日銭を稼いでいた。


「ざこざこのおにぃは私と違ってA級の冒険者になるの少し遅れているんだから頑張ってよぉ!」


「だから、わかっているってのぉ!?」

 

 そんな中で、今。

 僕が行っているのはA級冒険者になるための試験であった。

 冒険者は実力や実績によってランク分けされており、今は冒険者のランク区分の中で上から二番目の等級への昇格試験を僕は受けているのだ。


「よいしょっ!」


 そんな僕の試験内容は自分たちが活動しているナーシャと来た街の近くに巣食らう古竜の撃破である。

 

「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 村を襲って存分に腹を満たし、巣に帰ってきたところを僕から強襲された古竜は怒りの声を上げながらこちらへと竜お得意のブレスを放ってくれる。

 だが、それに対してはもう対応済み。

 サクッと前もって準備していた結界魔法でブレスを防ぎ切り、そのまま風に乗って古竜との距離を詰めていく。


「ここでA級になれないと僕らの生活は終わるんでなぁっ!A級冒険者だからこそ受けられる高額依頼の為っ!お前はここで死ねっ!」


 古竜との距離をどんどん詰めていく僕の手に握られているのは魔法によって作られたクソデカい氷の剣である。


「燃え上れ」


 そんな僕を止めようとその大きな腕を向けてくる古竜の行動は灼熱の壁を作ることで先手を打って動きを鈍らせ……。


「よっこらぁ……」


 僅かばかりの時間があれば十分。

 既に僕は風に乗って古竜の首の上にまでやってきていた。


「せぇぇぇぇぇっ!」


 そして、そのまま僕は自分の下に広がっている古竜の壁へと巨大な氷の剣を振り下ろす。


「ァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアっ!?」


 そんな氷の剣は容易に古竜の首を両断した。


「どーよ」


 古竜の首が地面へと落ちると共に、これまた当時に地面へと着地した僕はそのままニーナの方にどや顔を見せるのだった。

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