土竜
こちらへとゆっくり近づきつつある謎の気配。
「……地下だな」
それが地下から来ているものだと感知した僕は一切迷うことなく魔法を発動。
「のわぁぁぁっ!?」
自分たちが乗っている馬車ごと風の魔法でゆっくりと持ち上げていく。
揺れないように、丁寧に。
「ガァァァァァァァァァァァァっ!」
その次の瞬間。
先ほどまで自分たちが乗っていた馬車が進んでいた地面が盛り上がり、そのまま超巨大な土竜の魔物が姿を現す。
「ガァァァァっ!」
地中から地面へと上がってきたその魔物は小さな手をバタバタと振り回し、空に浮かんでいるこちらの馬車へと伸ばしてくる……結構可愛いな。その姿。
土竜が手を上に向かってパタパタしている姿は普通に可愛い。
まぁ、でも、その大きさはまったくもって可愛くない巨大サイズだけど。
「それはそれとして……こいつは何だ?縄張り争いで負けたか?」
一生懸命伸ばしているものの、それでもこれっぽちもこちらへと届いていない土竜の魔物を見て若干ほっこりしながらも、冷静に分析していく。
「の、ののぅ!?大丈夫なのか!?大丈夫なのかっ……あ、あれは多くの商会から恐れられているマッドイーターではないかっ!?」
「……そんな大層な名前なの?あいつ。全然似合わんやろ」
見た目は可愛らしい土竜をそのまま大きくしたかのような見た目の魔物の名前がマッドイーターとかいう強そうな名前なの?普通に意外やねんけど。
土竜呼びが妥当やろ。
「し、知らんのか!?」
「知らん。でも、問題はそんなないでしょ」
一応、マッドイーターとかいう土竜が魔法を使ってこちらを狙ってくることを危惧し、馬車全体を結界で守りながら僕は下へと降りていく。
「上から魔法でメタメタにしてもいいけど……」
この道は一応、行政の方が金を出して舗装した道だ。
土竜が地面から出てきた段階でもう無意味な気もするけど、それでも僕の魔法で更に道をボコボコにしてやることもない。
一応、これでも僕は貴族の生まれ。
行政の大変さはこれでも少しくらいは理解しているつもりだよ、うん。
「どっせいっ!」
そんなことを思う僕は迷いなく地面を蹴って土竜との距離を詰め、そのまま彼の腹へと蹴りを叩きつけて吹き飛ばす。
「ごぼぉっ!?」
魔法で威力を高めた僕の蹴りは確実に土竜の体を持ち上げてそのまま舗装された道から大きく外れてぶっ飛んでいく。
「よぉーし、マッドイーター退治と行こうかなぁ!」
そして、そんな土竜へと僕は意気揚々と近づいていくのだった。
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